医療法人松藤会
7つの習慣® 社内ファシリテーター養成制度導入
インタビュー
医療法人松藤会
常務理事 法人事務長 入江 興四郎 氏
法人事務局主任 人事担当 山田 宗豊 氏
兵庫県姫路市にある医療法人松藤会(以下、松藤会)は、入江病院、介護老人保健施設ゆめさき、サービス付き高齢者向け住宅リリーフあがほを擁する地域密着型の医療・介護を提供する医療法人です。地域に根付いて発展を続けてきた松藤会は、医療法人としては珍しく「7つの習慣®」を導入しています。今回は導入を決めた入江興四郎常務と、実際にファシリテーターとして研修を行う法人事務局の山田氏に、専門職が集まる医療機関ならではの人材育成の考え方や、「社内ファシリテーター養成制度」の導入・フォローアップ研修についてインタビューを行いました。
専門職の集まりだからこそ必要な研修
医療法人松藤会の中核施設 入江病院を院長が立ち上げたのは今から40年ほど前。最初は50床ほどの病院でしたが、地域の方々のニーズを反映させてどんどん形が変わり、現在は約200床もの規模になりました。現在では救急・急性期医療を中心に、亜急性期(地域包括ケア)、回復期リハビリ、慢性期、透析、在宅と、急性期から在宅支援まで一貫して行っています。病院はさまざまな専門職の集まりです。医師をはじめ、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、放射線技師…といった国家資格を持つ専門職のチームがそれぞれの分野に責任を持ち、勉強に励みながら日々患者様と接しています。地域医療を担う病院として最新の技術や知識を患者様に提供するために、各専門職のスキルアップ研修は20年以上に渡り行ってきた自負があります。
ところが、裸一貫でこの病院を立ち上げた院長がある時から「スタッフのスキルは確かに上がっている。しかし、もっと大事なものを忘れていないか?医療人としての技術を磨く前に『人として』はどうなんや?」と言い出したのです。院長自身、戦後の混乱期に体を使う仕事をしながら、京都大学の医学部に入学したという異色の経歴を持っています。そういう紆余曲折を経て医師になったからこそ、医療人である前に1人の人間として人格を磨くことの重要性を問われたのだと思います。
医療人に最も大切と考える「パーソナリティ」とは
私(入江常務)がこの病院に戻ってきたのが平成10年。その当時からずっと院長に「医療人にとって本当に大切なのは、パーソナリティだ」と言われ続けていました。しかし当時はまだ私自身も若く、正直に言うと院長が言っている「パーソナリティ」の意味がよく分かりませんでした。それから10年以上が経ち、患者様の声を聞いたりスタッフの立ち居振る舞いなどを見たりしているうちに、次第に院長が言っていることの重要性が自分自身でも実感するようになってきたのです。しかし、技術や知識を磨く研修であれば、勉強会や講習などさまざまな方法があるものの、「パーソナリティ」、つまり総合的な人間力を上げるための研修となると非常に難しい。院長に代わり今度は私が何年もの間、「パーソナリティ向上のためには何をしたら良いだろう」と模索するようになりました。
20年ぶりの「7つの習慣®」との再会
パーソナリティ研修を謳っている会社は数多くあります。しかし、実際に資料を取り寄せたりホームページを見たりしても抽象的なことが多く、「人間力」の本質的な部分に強く働きかけてくるような印象はありませんでした。それではどうしたら良いのだろう、と長らく頭を悩ませていた時に偶然、ビジネス誌で紹介されていた「7つの習慣®」を目にしました。実は今から20年以上前、私がまだ20代前半の頃、この本が日本に入って来てすぐに購入しています。約20年ぶりに「7つの習慣®」の考えに触れて名だたる経営者たちが取り入れていることを知り、直観的に「これだ!」と感じました。
その雑誌には、「7つの習慣®」でよく使われる大きな木の写真がありました。地面の上にそびえ立っている木の幹も太くて立派ですが、実はその地面の下には、木よりもさらに大きな根っこがどこまでも根を広げています。この写真を見た時に「今まで私たちがずっと行ってきた専門知識や技術の習得が「木の幹」の部分で、これから向上させようとしているパーソナリティは根っこそのものだ。根っこがしっかりしていないと、太い幹や大きな葉は育たない」と、今まで一人で悶々と悩んでいたものが一つの線につながったのです。そして「5年間、『7つの習慣®』研修を導入させてほしい。5年間で必ず結果を出します」と院長に訴えて、「7つの習慣®」の導入が決まりました。
「7つの習慣®」公開セミナーの受講と社内ファシリテーター養成制度の導入
山田氏:最初に入江常務から「『7つの習慣®』の公開セミナーを受けてきてほしい」と言われた時は、正直乗り気ではありませんでした。受講期間が3日間あるため日常業務への支障もありますし、過去に受けた他の講習が缶詰のような研修で退屈だった印象がありましたので。だからこそ、会議室で行う研修とは正反対の、豪華なホテルでラフなスタイルで参加する自由な雰囲気に圧倒され、不安や混乱を感じるほどでした。この「日常業務とはあまりに異なる空間での混乱」こそが、自分自身の価値観をリセットするきっかけだったと思います。
私が過去に受けて来た研修では、講師の方が「これが正しい、これが悪い。こうやれああやれ」という指導が多かったのですが、「7つの習慣®」の公開セミナーは正反対。自分自身を否定されることはまったくありません。自分の欠点を「マイナスだ!」と突きつけられることなく、長所に目を向けて伸ばしていく考え方が、他人を否定することが苦手な私にはとてもしっくりときました。その後、フランクリン・コヴィーの研修プログラムを内製化して実施ができる「社内ファシリテーター養成制度」も導入することになるわけです。
「7つの習慣®」のコンテンツ、例えば「一時停止」といった主体的な考え方など、具体的に学ぶことで私にとって影響がとても大きかったのですが、他にも大きな収穫がありました。それは一緒に「社内ファシリテーター養成コース」を受けた仲間との出会いです。医療法人で働いていると、なかなか一般企業の方々と触れ合う機会はありません。ところが今回参加していた多くの方は、主に一般企業で人事を担当されている方々。既に社内で講師をしている「しゃべりのプロ」も多く、人前で上手く話をするスキルなど様々な点で学ぶところが多かったと思います。そして様々な方と「7つの習慣®」の企業内での取り組みを情報交換していくうちに私は、専門職の集まりの医療法人だからこそ一般企業よりもこの研修が必要ではないのかと感じていきました。入江常務が私に、「7つの習慣®」を法人全体に取り入れたいので研修に行って来て欲しいと言った意味が、ここでようやく理解できたように思います。
この時に出会った養成コースのメンバーは今でもメーリングリスト等でつながり、近況を報告し合い、時には集まり、同じ新米ファシリテーターとして悩みや喜びを共有できる大切な仲間になっています。
一口に「ファシリテーター」といってもいろいろなスタイルがあるでしょう。それはフランクリン・コヴィーの研修講師の先生方も一緒。かなり緊張感を伴う方から終始和やかな方までいらっしゃって、そのさまざまな講師の研修スタイル自体も勉強になりました。今後私も研修を受け続けながら、自分なりの講師像を確立したいと思っています。
月に2回必ず行われるフォローアップ研修
「7つの習慣®」を導入する際に、「フォローアップ研修を必ず続けよう」と決めました。自分自身も受講してみて、研修当日をピークに、感動や気づきが減っていくことを実感していたからです。「7つの習慣®」の考え方や行動をしっかりと根付かせるためには、リマインドも含めて定期的に振り返ることが大切です。また振り返りの場があることで、普段の行動の中に意識的に取り込むこともできます。
フォローアップ研修は「1カ月に1回、1時間でも良いのでは?」という声もありましたが、最終的に「2週間に1回の各30分」と決めました。最初の15分でその日のテーマの復習、その後グループディスカッションを行い、最後の5分で発表です。研修の中にコンテンツの復習だけでなく、常に他の参加者と情報を共有し発表し合う時間を盛り込むことにより、職員自身が自分の変化を感じる事ができ、さらに他の人の変化も知る事が良い刺激になると考えたからです。本当は一人でも自分自身が主体性を持って変わっていく事が大切なのですが、人間はそんなに完璧な生き物ではありません。持続して変わり続けるにはともに歩む仲間が必要でしょう。これが研修時間が短くなっても開催を月2回にした理由です。
「今までは患者様のクレームがあるとどうにかやりすごそう、と思っていたが、今では相手の言い分の中にも正しいことがあるだろうと耳を傾ける余裕が出た。素直な気持ちでよく聞いてみると共感できることもある。そういった気持ちを患者様に素直に伝えることで、以前よりトラブルが大きくならず、最後には気持ち良くお帰り頂くケースが増えた。」「医師や上司から難しい指示などがあった時に、以前はすぐに返事をしないといけないと思い、(できません)などの否定的な返答をしてしまう事があった。しかし研修後は、一時停止し、まずは自分の中で受け止めてから返答するようにしてみた。すると同じ(できない)でも、きちんと理由や思いを伝えることが出来るようになったと思うし、さらには相手の思いを理解し、なんとかしようと考えるようになった。」など、こういう声が研修の中で聞けるようになりました。「7つの習慣®」の導入前に課題としていたことが、少しずつ改善されているなと実感できます。そして、その改善を継続していくためにも定期的にフォローを行ってリマインドすることが大切なのです。病院はどうしても縦割りの組織なので、他チームの方々と「7つの習慣®」という共通言語を持って、腹を割って話し合えることも貴重な機会になっていますね。
受講者の声
廣岡氏(放射線科技師)
私は放射線技師なので、専門技術の勉強会などにはいろいろと参加してきましたが、こういったビジネス研修は初めてです。最初は緊張しましたが、この研修を経て自分自身が大きく変わったことを実感しています。具体的に言うと、とても気が長くなりましたね。「一時停止」という考え方を学んだことで、今までならカッとするような場面でも自分の感情を一度抑えて一呼吸ついて、「相手の言い分の中にも正しいことがあるのではないか」というものの見方ができるようになりました。これが一番生かされているのは、実は職場より家庭です(笑)。子どもが3人いてイライラすることが多かったのですが、以前はすぐに心のシャッターを下ろしていたのが、最近ではしっかりシャッターを開けて、相手の言い分を聞くようになりました。職場でも「以前と変わった」と言われますね。
そうはいっても、この研修を一回受けただけなら感動も効果も持続しなかったでしょう。2週間に一度のフォローアップ研修を院内で継続的に受けており、その度に「しょうがないな、やってみるか」という気持ちで意識的に「7つの習慣®」を実践していたことが、いつの間にか本当に自分のためになってきています。これからは自分のチームの中でもっと主体的に動いて、良いコミュニケーションを取れるようになりたいですね。
小森氏(リハビリテーション科 理学療法士主任)
このセミナーの受講を勧められた時は、スタッフ数が約40人のリハビリテーション科になり、仕事上管理職として悩んでいる時でした。「どうやってメンバーをまとめていったら良いのか」「医師や看護師との関係はこれで良いのか」など、さまざまな悩みを抱えていました。当時の私は何か問題が起きると周りのせいにしたり、決めつけた対応をしており、うまく問題解決できていないことがありました。
「7つの習慣®」の公開セミナーを受けてから、感情的にならず相手の話をよく聞いて、冷静に自分の考えを伝えるよう意識的に実践してみました。すると、相手の言いたいことも理解できるし、自分の伝えたいことも理解してもらえるようになりました。また「相手に期待するよりまずは自分自身が変わらないと」と主体的な考え方が自然にできるようになったので、自分だけでなくチームの雰囲気も随分変わったように思え、充実感も得ることができるようになりました。
公開セミナー後に入江常務から「顔が変わったな!」と言われたのが印象に残っています。おそらく、私自身が無意識のうちに過剰に背負っていたものを自然と下ろせたのでしょう。「7つの習慣®」の公開セミナーにはリハビリテーション科から5名が受講しています。自分が変われば周囲も変わるという「気づき」が受講したスタッフを中心に、これからもっと病院内に広がっていけばと思っています。そのために私自身ができること、変われることはまだまだあると感じています。
舩木氏(医事課)
今までは仕事をする時にも「いつまでに○○を『しなくちゃいけない』」「こういう風にやれと言われたから『やらなくちゃいけない』」という風に、常に受け身の立場でいました。しかしこの研修を受けてから、他人にやらされているのではなく意識して主体的に行動するようになり、その結果、以前と同じ仕事であっても達成感を感じるようになりました。達成感を感じると、「よし、また次も頑張ろう」と前向きになり、自分自身の中にとても良いスパイラルが生まれています。また一時停止の考えを学んだことで、私も子どもに対して以前より大らかな気持ちで接することができるようになりました。
人に教えることによって一番身につくと思うので、今後はもっと勉強をして研修をまだ受けていない人にも、伝えられるだけの知識と経験を積んでいきたいと考えています。
今後の課題
入江氏:入江病院は設立から40年以上、医療法人松藤会は30年以上を迎えます。永く勤めてくれているスタッフもたくさんいて、その方達のお蔭で病院も法人も発展してきました。しかし、医療・介護を取り巻く環境もこの10年で大きく変わり、今後はますます変化のスピードが上がっていくことでしょう。その流れから取り残されないためには、私たち自身が変わっていかなくてはなりません。長年築いてきた自分のスタイルを変えるのは難しいことであり勇気のいることですが、皆がそこを乗り越えないことには、院長が常々言っている「パーソナリティ」の向上はなし得ません。
仕事は人生の多くの時間を費やすものなので、「仕事が楽しくないと人生も楽しくない」というのが院長の考えでもあります。経験年数や年齢に関わらず、医療法人松藤会 全スタッフが「7つの習慣®」という共通言語を持って「パーソナリティの向上」という目標に向かって進み、その結果、充実した人生を送って欲しいと願っております。