セミナー:竹村 富士徳 氏
2013 年6月4日〜7日に「HRサミット2013」が東京で開催されました。その中で、皆様よりご好評を頂きました『日本でいちばん大切にしたい会社』で有名な、法政大学大学院教授の坂本光司氏と、フランクリン・コヴィー・ジャパン株式会社取締役副社長の竹村富士徳氏との対談レポートをご紹介させていただきます。
企業の1割が社員を大切にする「いい会社」
竹村
本セミナーを聴講される方は、坂本先生の『日本でいちばん大切にしたい会社』やコヴィー博士の『7つの習慣』を読まれた方が多いと思います。日米のベストセラーになった2つの本には共通点があります。それは本日のタイトルにある通り、成果を出し続けるための共通点を探していることです。『7 つの習慣』は米国建国200周年を記念して、建国から200年間のアメリカで成功した人たちの習慣をコヴィー博士が調べて書いた本です。それに対し坂本先 生は日本の中小企業に特化して、素晴らしい業績を上げておられる企業の共通項を研究されておられます。日米と対象は違うけれど、『7つの習慣』と近しいと ころがあると思います。そこでまずお聞きしたいのは、そのような研究を始められたきっかけです。
坂本
社会人になって40数年経ちますが、中小企業の現場に行く機会が多かったのです。これまでに7000社を訪ねてきました。たくさんの現場を訪ねると、いろんなことがわかってきます。わかってきたのはとことん人を大切にするいい会社があると言うことです。そんなにたくさんはないが、10社訪ねると1社くらいそういう会社があるのです。だいたい1割ほどが人を大切にし、結果として業績がいいのです。その一方で人を犠牲にする企業もあります。
わたしは人を大切にする企業は日本の宝だと考えました。そういう企業が増えれば不幸な人は少なくなり、自殺者もなくなります。すべての企業がそうなるのは無理だとしても1割の人を大切にする企業を2割に、3割に増やしていかなければなりません。それが研究者としての使命だと思うのです。わたしは本日66歳の誕生日を迎え、そんなに長い時間は残されていません。生きている間に人を大切にする企業を増やしていきたいと思います。
ぶれない会社の経常利益率は5%以上
竹村
坂本先生は現場主義を貫いて研究され、7000社の現場を見る中で人財力に行き着かれました。そして人財力のある企業は業績が伴っていることを発見されました。先生の著作には、全法人企業の73%が市況に関わりなく利益を出すことができなくなっていることが書かれています。1960年代に利益を出していない企業は30%でしたから、増えています。しかし、その一方で過去10年以上にわたって経常利益率が5%を超えている企業が10%くらいあるのです。しか も市況に関わりなく利益をあげている。その原動力を探っていくと人財力に行き着くのです。
坂本
わたしが学生 だった頃、経営の3要素はヒト、モノ、カネと教わりました。そしてこの3つは並立概念であると習いました。しかしこれは間違いです。経営は、一に人財、二に人財、三に人財なのです。後の要素は道具に過ぎません。なぜ人財なのか。感動的価値やサービスを創造、提案する担い手は人財なのです。客でも株主でもありません。人財がはっとする、ほっとする感動的価値を連続的、かつ波状的に創出し続けるから、結果として業績がいいのです。そういうぶれない会社が1割ほど存在し、その経常利益率は5%を切るようことがないのです。
軽薄短小の「人材」、重厚長大の「人財」
竹村
先生の本を読んで共感したことがあります。結果を出せず経営難に苦しんでいる経営者が業績悪化の原因としてあげる5項目です。先生は1「景気や政策が悪い」、2「業種、業態が悪い」、3「規模が小さい」、4「ロケーションが悪い」、5「大型店、大規模企業が悪い」の5つをあげておられます。5つに共通し ているのは「問題が外にある」と考えていることです。そう考えること自体が問題です。さて、ここで聴講に来られた方にお聞きしたいとことがあります。皆さ んの会社でも「ジンザイ」という言葉を使い、部署名もあると思います。そこでお聞きしますが、「人材」と「人財」のどちらの漢字を使っておられますか?挙手で教えてください。
なるほどわかりました。どうやら半々のようです。しかし一般的には「人材」を使う企業が多く、「人財」を使う企業は3割以下だと思います。このセミナーに参加されている企業なので高い問題意識を持っておられることを反映しているのだと思います。
坂本
確かに今日の参加企業は「人財」を使う比率が高いと思います。少しずつ人材ではなく、人財を使う企業が増えてきているとはいえ、まだ少数派です。しかし、わたしはどちらの表記を使うかで、人に対する考え方が表れていると思うのです。「人材」は軽薄短小の材料として人を見ています。軽く、薄く、短く、小さい方 がいいと、つねに人を比べているのです。「人財」はその反対で重厚長大です。重く、厚く、長く、大きい方がいい。そして人を比べないのです。「人財」の観点では、男がいいか、女がいいかという比べ方はしません。健常者、障がい者も問いません。正社員か非正規社員かの雇用形態も比較せず、社内・社外の区別も しないのです。軽薄短小の人材は外を傷つけ不幸にしますが、重厚長大の人財は人を元気づけ、幸せにします。そういう内容を20年前に話した時にある大企業の人事本部長が聞いておられ、後にお便りを頂きました。「全くその通りだ。人材から人財に変われば日本はふたたび元気を取り戻すだろう」という涙の出るようなうれしい内容でした。
人間の持つ4つの側面と4つのニーズ
竹村
人財の考え方はコヴィー博士の『第8の習慣』に近しいと思います。コヴィー博士の思想は『7つの習慣』で有名になりましたが、実は『第8の習慣』もあります。その内容は、人間は4つの側面を持ち、それぞれのニーズがあると分析しています。1つは「肉体」で、生きること、経済的に満たされることです。2つ 目は「情緒」で、愛すること、お客様とのコミュニケーションやチームとしての協働を指します。3つ目は「知性」で、学ぶこと、自己実現や成長です。4つ目 は「精神」で、貢献すること、社会・会社への貢献です。コヴィー博士は次のように語っています。「あなたが4つのうち1つでもないがしろにしたら、あなたは人ではなくモノとして相手を見ています」。4つの側面は価値観とも言えます。
右肩上がりの高度成長期は、肉体の側面が重視され、経済的に満たされることが大切でした。しかし、いまでは仕事のモチベーションとして、自己実現、成長、貢献という価値観を重視する人が増えています。価値観は変わっているのですが、会社の仕組みは古いままです。材料の人材としての経費はPL(損益計算書)の経費のいちばん上に「人件費」として出ています。しかし財産である人財であるならばBS(貸借対照表)に記載されるべきだと考えますが、そうなっていません。
業績は社会が与えてくれるご褒美
坂本
わたしは仕事がら本を読むことが多く、自分自身でもたくさん本を書いています。専門の中小企業経営という観点で読んだ数千冊の本の中で、コヴィー博士の 『7つの習慣』は非常に触発されるものが多かった一冊でした。他にはドラッカーの全ての著作からも学ぶものが多かったですね。ふたりに共通しているのは、テクニック論ではなく、人、人間そのものを問うているところです。いま竹村さんはコヴィー博士の『第8の習慣』を紹介されましたが、同感するところが多いです。業績やシェアを高めることが企業経営の目的だと思っている人がいますが、間違いですね。そういうことを目的にすると、人を不幸にします。企業経営の目的は、関わりのあるすべての人を幸福にすることです。社員だけでなく、その家族、取引先、そして地域の弱い人たちすべてを幸せにするのが企業経営なのです。業績は全ての人を幸せにした結果、社会が与えてくれるご褒美なのです。
人財力とは才と徳を兼ね備えること
竹村
コヴィー博士の考え方は、坂本先生の考え方ととても近しいものです。『7つの習慣』のもともとのサブタイトルは「人格主義の回復」であり、人を変容する、人間力を高めるための「7つの習慣」とそのための原則をまとめています。言い方を換えれば人財力ということになります。本日聴講されている方の中には教育 に携わっておられる人も多く、人財力とは何かについて高い関心を持っておられると思います。「人財力が高い」とは具体的にどういう人財を指しているのでしょうか。
坂本
才と徳を兼ね備えた人が人財力の高い人だと思います。このいずれかが欠けていれば、それはニセ者の人財です。ではどうやって才と徳を兼ね備えた人財を育てるのか?才と徳の教育をフィフティ、フィフティでやるのか。いや違います。才の教育はやる必要 がありません。ぶれない会社の99%、99.9%は徳の教育です。徳のない人に才の教育をすると自利に走ってしまいます。徳の教育によって徳のある人に育てば、自ら才を高めようとするから教育する必要がないのです。なぜ才を高めようとするのか。それは徳とは利他の心だからです。利他とは他人を元気にすることであり、元気にするために才が必要です。だから徳のある人は自らの才を高めようとするのです。そして、そういう人財がいる会社は、結果としてご褒美のように利益が出るのです。経営者は考え違いをしてはいけません。社長は社長をやっている社員であり、社員は社員をしている社員です。ひとりの人間としての価値は変わりません。会社は家族なんです。
竹村
先ほど話したように『7つの習慣』はアメリカ建国200年を契機にした調査ですが、成功する要素が最初の150年と、最近の50年では変わっています。最初の150年は誠実、勇気、思いやりなどの人格主義的な要素が強く、最近の50年間はテクニック、スキル、イメージなどの見える部分、個性主義的な要素が 強まっています。しかし先生の著作に登場する「いい会社」には人が殺到しているそうですね。
坂本
紹介した会社 は中小企業ばかりです。いちばん社員数が多くても300人です。新卒採用数も数人です。そんな会社に錚々たる大学の学生が数千から数万人規模で応募してきます。給与や福利厚生、立地が人気の原因ではありません。別の理由です。社風、ぬくもり、家族経営、経営者の属人的魅力、人本経営がキーワードです。そんな企業の代表が伊那食品工業です。社是は「いい会社をつくりましょう」。経営理念は「会社の目的は社員の幸せを通して社会に貢献すること」。二流の会社は勝つための経営戦略に汲々としますが、伊那食品は目先の数字を優先しません。そんな会社の10名の新卒採用に7000名もの学生が志望します。この会社では離職率がゼロ。社内結婚が多く、安心して働けるから安心して子どもを作り、平均で3人の子どもがいるそうです。
経営者自身が人財になる
竹村
伊那食品は「かんてんぱぱ」という寒天食品で知られており、寒天ブームになった時も増産しなかったことで有名です。さて、最後の質問をさせてください。よく企業は人財がすべてという話をすると、「そうなんです。ですが、わが社は人財に恵まれていないんです」とおっしゃる経営者がいますが、わたしは違和感があります。部下が人財になる前に、インサイドアウトというか、経営者自身が変わって人財にならなくてはならないと思うのです。
坂本
企業経営においていちばん大事なのは、社長という人財です。社員は社長の背中と心によって育つのです。社長の生き様、言動を見聞きして、命がけで働こうと思うのです。知っ ている事例では10年間赤字が続いた大阪の企業で、経営者が代わった途端に黒字になった例があります。新社長は、最初の1年間は朝6時15分に出社し、夜の11時まで仕事をしたそうです。この方は1部上場企業の方だったので蓄えがあったのでしょう。奥さまが社員30人に1人3万円のボーナスを渡したそうです。そして社内が一丸となって頑張り、黒字を達成したのです。会計事務所から黒字の報告を受けた翌日に、社長は血反吐を吐いて倒れました。いまは回復されておられますが、それほどの覚悟でやっておられたということです。
竹村
いまアメリカではES(エンプロイー・ サティスファクション)からEE(エンプロイー・エンゲージメント)へと経営概念が進化していますが、社員のエンゲージメントを生み出すためには、経営者が生き様を社員に伝えることが必要ですね。本日は短時間ではありましたが、有益な知恵をお聞きすることができました。ありがとうございます。
プロフィール
坂本 光司 氏
法政大学大学院 政策創造研究科 教授 同経営大学院 教授 静岡サテライトキャンパス長。1970年 法政大学経営学部卒業。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授等を経て、法政大学大学院政策創造研究科教授・同経営大学院(MBAコース)兼担教 授。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」審査委員会委員長、NPO法人オールしずおかベストコミュニティ理事長等、公務多数。著書は『日本でいちばん大切にしたい会社』『強く生きたいと願う君へ』など。
竹村 富士徳 氏
フランクリン・コ ヴィー・ジャパン株式会社 取締役副社長 筑波大学 客員教授。1995年、旧フランクリン・クエスト社の日本法人に入社。経営企画、経理全般、人事、プ ランナー関連商品の開発、販売、物流など多岐に渡って担当する。1997年同社副社長に就任。1998年、コヴィー・リーダーシップ・センターとの合併に伴い、フランクリン・コヴィー・ジャパン(株)にて28歳の最年少で取締役に就任。2000年取締役副社長に就任。2012年筑波大学客員教授に就任。著書は『タイム・マネジメント4.0― ソーシャル時代の時間管理術』など。
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