新入社員や中途入社の社員について、入社・配属後すぐに彼らに信頼を寄せることができる上司はどれほどいるだろうか。
新しい環境やこれまでと違う仕事内容に戸惑い、社員たちはときには失敗することもある。
「それは前に教えたじゃないか……」
「社会人になって何年目だ、こんなこともできないなんて……」
失敗を目の当たりにし徒労感を覚え、社員たちを信頼する気持ちになれなくなってしまう上司もいるかもしれない。
しかし、社員に対する信頼の欠如はパフォーマンスの低下をもたらしてしまうことを、我々は忘れてはいけない。
失敗や不義理を見かけると、我々はつい「信頼させてくれない」とその人を信頼できない要因を相手のせいにしてしまう。
そうではなく、まずは社員たちを信頼してやってみる。それが良い影響をもたらすのだ。
信頼の影響について、スティーブン・R・コヴィー博士の長男であるスティーブン・M・R・コヴィーは、ドーナツ店を開いたジムのエピソードを教えてくれている。
ジムはドーナツ店を1人で切り盛りしていたため、お客にお釣りを渡すことに手間取り、その時間的なコストによって売り上げが伸びていないのではないかと考えた。
そこでジムは、一ドル札と硬貨を入れた小さなかごを店の片隅に置き、そこから客に自分で釣銭を取ってもらう方式に思い切って切り替えた。勘定を間違える客や、こっそり余分に持って行く客がいると思いきや、結果は逆だった。大部分の客は極めて正直で、チップを普段より多めに置いていく客もいたほどだった。また、お釣りを渡す手間がかからないので、客の回転率は二倍に跳ね上がった。さらに、信頼されていることに気を良くした客が常連になった。ジムはこうして他者を信頼することによって、コストをかけずに売り上げ倍増を実現したのである。
(スティーブン・M・R・コヴィー『スピード・オブ・トラスト』キングベアー出版 )
このエピソードから学べることは、まずは自分が他者を信頼すること。そして、その影響が他者からの信頼を呼び込むということだ。
信頼は数値化できないため、達成した実感も得にくく、特に職場においてはなかなか目標に掲げづらいと考えられがちだ。
だが、ジムのように信頼によって行動を起こし、行動が信頼を呼び、そして売り上げの増加や行動コストの削減につながるという「影響の連鎖」をイメージしてみてほしい。
そして、自分の仕事や社員への接し方で、信頼による影響の連鎖が起こることをイメージしてみてほしい。
信頼が採算面やスピードにもたらす影響は、軽視されたり見えないものとして捨ておかれたりしてしまいがちだ。
他の人が実施しないからこそ、信頼による影響を気にかけて行動、マネジメントできる上司の価値が上がる。
採算やスピードのためはもちろん、ビジネスパーソン・上司としての価値を一段高めるためにも、いま一度、社員たちに対する自分の信頼や態度を見直してみたい。