組織を束ねるリーダーとして働く上で欠かせないのが「デリゲーション(delegation)」です。
簡単に言うと、デリゲーションとは、誰かに仕事を任せることを意味します。
目次
デリゲーションとは?
本来、デリゲーションには、「代表団」とか、「代表を任命する」などの意味がありますが、ビジネス上では「権限を任せる」という意味で用いられています。
従業員に対して権限を委譲し、仕事を任せてしまうことにより、業務に対する主体性を促す効果を期待できるほか、従業員の自律性を刺激して生産性向上につなげるという、一種のマネジメント手法でもあるのです。
デリゲーションの成否は、「いかに任せきることができるか」がカギを握っており、任せきることができず、結局中途半端に関与してしまったりするようでは、デリゲーションによる成果は期待できません。
デリゲーションとエンパワーメントの違い
「権限を委譲する」という意味では、「エンパワーメント」も同義に使用される言葉です。
本来は米国の社会改革運動から発生した言葉ですが、ビジネスにおいてはデリゲーションと同様に、「権限を委譲することで主体性を持たせ、生産性向上を図る」ための意味として用いられています。
ただし、デリゲーションが従業員個人に仕事を一任して主体性や自律性を発揮させることが目的なのに対し、エンパワーメントはチーム内において一定権限を持たせることにより、個人の能力を引き出すことに対するマネジメント手法として捉えられています。
つまりエンパワーメントとは、メンバーごとに自分のスキルに自信を持たせることで、チーム内において新たなリーダーや優秀な人材育成を促すという意味合いを持っています。
デリゲーションが苦手な人は多い
日本では、このデリゲーションを苦手とする人が多いようです。
「自分でやった方が早い」「人に頼むと気苦労が増える」「期待するような結果が返ってこない」などと言う人もいます。
しかし、確かな技術とスキルを持つ人に仕事をお願いできれば、自分はもっと重要なことに力を注ぐことができます。
その結果、チームとしての成果を何倍にもすることができるのです。
ただし「これ取ってこい、あれ取ってこい、これをやれ、あれもしろ、終わったら私を呼べ」という使い走りのやり方では、限界があります。
仕事のやり方を指定して管理しようとすると、何人もマネジメントすることはできません。
そして結果に対する責任も自分自身で負うことになります。
これでは出せる結果は知れています。
では、どうすればいいのでしょうか。
効果的なデリゲーションとは?
その方法を、スティーブン・R・コヴィー博士は、著書『7つの習慣』の中で「全面的なデリゲーション」と名付け、次のように説明しています。
全面的なデリゲーションは、手段ではなく結果を重視する。手段は自由に選ばせ、結果に責任を持たせる。初めは時間がかかるが、その時間は決して無駄にはならない。
基本的に任せきり、どう応援するかに注力する
デリゲーションの基本は「任せきること」ですから、仕事の進め方も当人にすべて任せきってしまうことが重要です。
しかし、一度権限を委譲したからといってすべて放棄してよいのかというと、そういうわけではありません。
デリゲーションはマネジメント手法の一つですから、仕事には一切手を出さずとも、応援というかたちでマネジメントしていく資質も求められます。
当人は権限が委譲されたからこそ自分の力で仕事を進めていくわけですから、上司に何の相談もなく行動することもあるでしょうし、逆に分からないことだらけで相談に来ることもあるでしょう。
その度に、「相談もなく勝手に進めるな」と怒ったり、「お前に任せたんだからいちいち相談に来るな」と突き放してしまってはデリゲーションの意味がありません。
一切を任せたのであれば、任せたなりにどう応援をしてあげたらいいのか、マネジメントする側としてちゃんと考えてあげることが重要です。
本来持っている能力を発揮させる
仕事の権限を委譲して一任するからこそ、「当人の持ち合わせている能力をいかに発揮させることができるのか」を意識しておくことも、マネジメントする側に求められる大切な資質です。
ここでポイントとなってくるのが、先にご説明した「エンパワーメント」の要素です。
せっかくデリゲーションによって仕事を一任しても、個々が自分勝手に行動をしてしまうと、チームとしての機能を果たせなくなってしまうことも考えられます。
チームは、個々が同じ方向性を共有することで成り立つものですから、個人、チーム、そして会社のベクトルを、常に合わせておかなければなりません。
「任せきる」ことで生産性をアップさせることがデリゲーションの本質ですが、エンパワーメントによって当人に自信を持たせつつ、勝手な動きでチームを乱さないよう、適宜確認をしながら能力を見極める「目」も必要です。
デリゲーションが組織に成果をもたらす効果は?
デリゲーションは、仕事のやり方を問うものではなく、あくまでも結果を重視するマネジメント手法です。
仕事の進め方はどのような方法でも構わないという自由な選択肢を与える代わりに、「結果を出す」という責任を持たせることにより、生産性の向上が図られるのはもちろん、当人の成長を促すことができます。
デリゲーションによって部下を成長させていくためには、当然ながら相応の時間が必要ですし、上司には我慢強く成長を見守る忍耐も求めれます。
しかし、デリゲーションによって、いずれはチームや会社を動かせる人材を育成できれば、組織としても「持続的な成長」という大きな成果を手に入れることができます。
ただし、デリゲーションをするためには、仕事を任せる部下と上司との間に大きな信頼関係がなければ、組織に成果をもたらすことは難しくなります。
任せた部下の仕事ぶりに口出ししたり、リスクに直面したからといって委譲を取り消してしまったりしては、部下だけでなく上司や会社そのものの成長も見込めません。
そうならないためにも、デリゲーションの前にしっかりと話し合う場を持ち、必要があれば問題点や疑問点などを洗い出す作業を行うなど、相互にコミュニケーションを図りながらお安心し合える関係を構築しておくのが望ましい方法です。
全面的なデリゲーションをおこなうためのポイント
そして、全面的なデリゲーションをおこなうためのポイントとして5点あげています。
簡単に説明します。
1.望む成果
何を達成するか、手段ではなく結果について、時間をかけて納得するまで話し合います。
理想的な結果についてのイメージを共有し、いつまでに成し遂げる必要があるのか、その期限も決めておきます。
2.ガイドライン
守るべき基準やルールがあれば明確にしておきます。
失敗する可能性の高いところがあれば、最初に教えておきます。
ただし、してはいけないことの説明にとどめ、やり方を指示するのは控えることが大切です。
3.リソース
望む結果を達成するために使える、人員、賃金、技術、組織、リソースを明確にしておきましょう。
4.アカウンタビリティ
成果を評価する基準を定め、仕事の進捗の報告を求める時期、評価を行う時期を決めておきましょう。
次のような質問が役に立つかもしれません。
「たとえば、進捗状況をどのように測るべきでしょうか?」
「どのようなマイルストーンがあれば、正しい方向に向かうことができると〇〇さんは考えますか?」
5.評価の結果
評価の結果として、良いことも悪いことも具体的に話しておきましょう。
人は信頼されていると思えば、最大限の力を発揮するものです。
しかし、そのためには時間と忍耐が必要です。
まとめ
自分の時間を使うときは効率性を考えますが、人に任せるときは効果性を考えたマネジメントが必要になってきます。
任せる相手の能力に合せて、望む結果のレベルを決め、ガイドラインの数やリソースのボリュームを検討する必要があります。
この点を意識して、まずは取り組んでいただきたいと思います。