政府主導で取り組んでいる「働き方改革」の中で、課題となっている長時間労働。
今後、労働界、経済界の合意の下、36協定で超えてはならない罰則付きの時間外労働の限度が設けられる見込みだ。
会社からも残業を減らすよう圧力がかかる中、一部の管理職は困惑している。
求められる仕事量は変わらないのに、仕事ができる時間は削られていく……。
部下に残業を依頼しにくくなった。
自分で持ち帰ってやるしかないのか。
課題を解決するためには、原因を探さなければいけない。
長時間労働は結果であって、原因ではない。
原因は業務量の多さ、生産性の低さ。
単純に考えて、業務量が減れば売上は減る。
それは会社としてあってはならない状況。
だから、生産性を向上させるしかない。
つまり、最小の労力で最大の成果を目指すには、どうしたらいいのだろうか?
そのひとつとして、スティーブン・M・R・コヴィーは「信頼」を挙げる。
書籍「スピード・オブ・トラスト」の中でこう述べている。
信頼の量は常に、スピードとコストという二つの結果として現れるということである。信頼が減ると、スピードが低下し、コストが上昇する。
9.11テロの直後は、米国では空の安全に対する信頼が大幅に低下した結果、より厳重な手続きと検査システムが導入された。
これにより、空の安全性への信頼は上がったものの、時間を含めたコストがかかるようになったのだ。
逆に「信頼が増えることでスピードが上昇し、コストが低下した」事例として、ジムが経営するドーナツとコーヒーを売る店が書籍の中で紹介されている。
朝食時や昼食時にいつも長蛇の列ができていたので、次のような対策を試みた。
一ドル札と硬貨を入れた小さなかごを店の片隅に置き、そこから客に自分で釣銭を取ってもらう方式に思い切って切り替えた。勘定を間違える客や、こっそり余分に持って行く客がいると思いきや、結果は逆だった。大部分の客は極めて正直で、チップを普段より多めに置いていく客もいたほどだった。また、お釣りを渡す手間がかからないので、客の回転率は二倍に跳ね上がった。さらに、信頼されていることに気を良くした客が常連になった。ジムはこうして他者を信頼することによって、コストをかけずに売り上げ倍増を実現したのである。
残業問題で板挟み状態の上司が身に付けるべきスキル。
それは、社内、社外にかかわりなく仕事をする上で関係するあらゆる人と信頼を築き、育て、与え、回復させる能力だ。
そのスキルを、板挟み状態などピンチのときに遺憾なく発揮してこそ「真のリーダーシップ」が評価されるのである。