サクセッションプランとは、企業における経営の後継者を育成する計画のことです。従来の人材育成とは異なる方法で、企業の存続や経営戦略に密接に関わるものです。この記事では、サクセッションプランの目的や進め方、効果などについて解説します。事例も交えて解説しているので、ぜひ自社の戦略に活かしてください。
目次
サクセッションプランとは
サクセッションプランは、企業や事業を後継する人材を育成する計画のことです。サクセッション(succession)は「継承」「相続」を意味しており、プラン(plan)は「計画」を意味します。
日本の中小企業は、会社を引き継ぐ後継者が不足しているという課題を抱えています。そのため、これらの中小企業が存続できるよう、後継者の確保が必要とされています。
一方、上場企業については、コーポレート・ガバナンスコードというルールにおいて、会社の取締役会は会社の後継者の計画を監督することが求められています。つまり、上場企業は後継者計画の監視が義務づけられている現状があります。
サクセッションプランの成り立ち
サクセッションプランは、1950年代のアメリカから始まりました。日本では、2015年に東京証券取引所が策定した「コーポレート・ガバナンスコード」において「CEO等の後継者計画の監督」の項目が設けられたことが大きなきっかけとなりました。
2018年には、国際標準化機構が公開した「ISO30414」に項目「Succession planning」が設けられ、サクセッションプランの企業開示が進められるようになりました。
サクセッションプランと従来の手法との違い
サクセッションプランと、従来の人材育成や後任登用は異なります。ここでは、従来の人材育成や後任登用との違いについて解説します。
従来の人材育成との違い
サクセッションプランと従来の人材育成は、主に育成を主導する人物と、対象となる人物が異なります。サクセッションプランは、経営層が主導するもので、後継者や経営の幹部が対象となります。一方で従来の人材育成は、全従業員を対象に、人事部や部署の上司などが主導する形式です。
後任登用との違い
サクセッションプランと後任登用は、主に人材登用の判断基準が異なります。サクセッションプランでは、経営理念や戦略に沿って、全社から将来の経営層の候補者を選びます。一方で後任登用は、直属の部下などを対象に、スキルやキャリアから判断して後任の候補者を選ぶ形式です。
サクセッションプランの4つのメリット
サクセッションプランのメリットは、主に4つあります。ここでは、4つのメリットについて解説します。
1.候補者不在のリスクを避けられる
サクセッションプランを採用すると、候補者不在のリスクを避けられます。事前に経営幹部の候補者を選抜・育成することで、経営者の突然の交代が必要になった際の混乱を防ぐことが可能です。経営者のポストが空白になるリスクを避けることができ、企業を持続的に運営可能にする点も、メリットといえます。
2.人材登用の基準を可視化できる
人材登用の基準を明確化・可視化できるようになる点も、サクセッションプランのメリットの1つです。経営者候補の選抜要件を明確にし、育成方法を整備することで人材登用の基準が明確化さらには可視化できます。基準やプロセスが可視化されると、自社に対する従業員らの信頼が高まることでしょう。組織全体のモチベーションの向上にも貢献できます。
3.人材の定着につながる
サクセッションプランの採用は、人材の定着にもつなげられます。昇進やキャリアアップへの明確なステップを示すことで、優秀な従業員が定着しやすくなります。人事評価を明確に示さないために、優秀な従業員が転職・独立することも防げるでしょう。経営層からの育成により、従業員のエンゲージメントが高まり、組織全体の活性化にもつながる可能性があります。
4.人材の育成・採用コストを軽減できる
人材の育成や採用コストを軽減できる点も、サクセッションプランのメリットといえます。既存の従業員から幹部候補を選抜することで、外部からの採用よりコストの軽減が見込めます。また、自社の理念の浸透や育成も効率よく進められるようになるでしょう。
一方で、外部からの採用する際には、人材紹介の手数料や育成に時間がかかるなどのデメリットがあります。
サクセッションプランの2つのデメリット
サクセッションプランのデメリットは、主に2つあります。ここでは、2つのデメリットについて解説します。
1.早急な人材育成には不向き
サクセッションプランは、早期に幹部候補の育成が必要な場合には、向いていません。人材育成の期間は、数年から数十年といった長期にわたるものだといわれています。経営や自社の理念を理解したり、幹部が必要なスキルを磨いたりするのには、一定の期間が必要になるためです。
2.長期間のコストや人材離脱のリスクがある
長期にわたってのコストや人材離脱のリスクがある点も、サクセッションプランのデメリットといえます。サクセッションプランは、年単位で立てるプランであるため、その分コストがかかります。また、長期間の育成の間に、候補者がキャリアプランを変更したり、辞退や退職したりする可能性もあるでしょう。
サクセッションプランの進め方
サクセッションプランを進める際には、その全体像や具体的な手順を把握する必要があります。ここでは、サクセッションプランの進め方について解説します。
1.自社の経営戦略とビジョンを明確にする
サクセッションプランを進める際には、まずは自社の経営戦略とビジョンを明確にしましょう。自社の企業理念や企業文化、経営状況、自社製品・サービスなどを分析し、分析結果から将来の後継者に必要な条件や目指すべきゴールを決めます。後継者候補が目指すべきゴールに向けて歩めるように、組織として地盤を固めることが大切です。
2.プラン上の重要なポジションを決める
経営戦略とビジョンを明確化したら、サクセッションプランを実現するための重要なポジションや、その条件を決めましょう。ポジションには、CEOや役員、部長クラスなどの経営上重要とされる役割が含まれます。事業継承のみが目的の場合はCEOのみを対象、組織全体を改革したい場合は経営層の役職の新設・編成についても、検討する必要があります。
3.人材の要件を決め、候補者を選定する
ボジションが確定したら、人材の要件を決めて、候補者を選定しましょう。具体的には、CEOや役員などのポジションに必要なスキルや経験を決め、要件をまとめます。要件にもとづき、プランの対象となる候補者を選定しましょう。選定方法には自薦、他薦、アセスメントがあります。
4.人材の育成計画を立てる
候補者の選定ができたら、人材の育成計画を立てましょう。育成方法には、OJTやOKR、外部への派遣などがあります。候補者によってスキルや得意分野は異なるので、育成計画は個別に作ることをおすすめします。計画にもとづき、候補者を要件に合った人材へと育成するようにしましょう。
5.PDCAサイクルを回す
人材の育成計画を立てたら、育成計画の進捗を定期的に確認するために、PDCAサイクルを回しましょう。PDCAとは、計画・実行・評価・改善のプロセスを繰り返し、必要に応じて計画を変更・修正することです。PDCAサイクルを回すことで、効果的な育成を目指しましょう。
サクセッションプランに成功した企業事例
サクセッションプランを採用する際には、成功事例を把握することも大切です。ここでは、サクセッションプランに成功した企業事例をご紹介します。
1.トヨタ自動車株式会社(TOYOTA)
トヨタ自動車株式会社(TOYOTA)は、1999年から、役員や部長など幹部候補を育成するプログラム「GLOBAL21プログラム」を実施しています。「経営哲学、幹部としての期待の明示「人事管理における5つの能力」「育成配置、教育プログラム」を3つの柱にし、グローバル幹部に必要なスキルを身につける仕組み作りをしています。
2.株式会社りそな銀行
株式会社りそな銀行では、2007年から、役員や次世代の社長の候補となる人材を育成するサクセッションプランを実施しています。次世代のトップや役員候補を選び、「変革志向」や「組織を動かす力」「勝ちにこだわる姿勢」など役員に必要な7つの能力をもとに立てられたプランです。選抜の透明化を図っており、派閥による選抜の抑止にもつなげています。
3.オムロン株式会社
世界初の自動改札機のメーカーとして名の知れたオムロン株式会社では、「社長指名諮問委員会」を設置し、緊急時のサクセッションプランを毎年審議しています。同委員会では、企業の透明性の向上を目指すことを目的に、取締役会が社長候補の選任を決定することになっています。2006年からは社長の評価と指名を年次で行い、ガバナンスの強化にも力を注いでいます。
まとめ
サクセッションプランとは、企業・事業を後継する人材育成をする計画です。従来の人材育成とは異なり、企業の存続・経営戦略に密接に関わる方法です。候補者不在のリスクを避けられる、人材の定着につながるなど、多くのメリットを得られます。
最高の業績を上げている組織は、常に以下の4つの点を適切に実施しています。
・各階層で優れたリーダーを育成する
・個々人に効果的な習慣を形成する
・包括的で信頼性の高い文化を構築する
・共通の実行システムにより最重要目標を追求する
フランクリン・コヴィーは、上記の4つの重要領域における組織の行動変容の実現を通して
「お客様の成功」に貢献するサービス提供や支援をしています。サクセッションプランの採用を検討している方は、こちらよりお気軽に問い合わせください。