仕事に熱意を持たず、必要最低限の業務にしか携わらない「静かな退職(Quiet Quitting)」と呼ばれる働き方が、2022年ごろから米国で話題になっています。米国においては、静かな退職を選ぶのは主に若者世代。仕事に対する価値観の変化として、注目されています。
この記事では、「静かな退職」の概要や、増加する背景について解説します。対策や兆候についても解説しているため、静かな退職という言葉について、基礎的な知識を知りたいと思っている人は参考にしてください。
目次
「静かな退職(Quiet Quitting)」の基礎知識
静かな退職とは、何を意味する言葉なのでしょうか。いつ、誰が考え出した言葉なのかについても解説します。
「静かな退職(Quiet Quitting)」とは
静かな退職(Quiet Quitting)とは、今の給料を維持するために必要最低限の仕事しかしないことをいいます。ワークライフバランスや自分の自由な時間に重きを置いているZ世代は、静かな退職に対して肯定的な印象を持っていることが分かっています。
このような働き方は従来から「頑張りすぎない働き方」として知られてきています。静かな退職が注目されているのは、近年になって、この働き方を意識的に選ぶ人が増えてきたことが一因です。
「静かな退職(Quiet Quitting)」の考案者
静かな退職という言葉を作ったのは、アメリカのキャリアコーチであるブライアン・クリーリーです。2022年にTikTokとYouTubeでこの言葉を説明する動画を公開したところ、動画が英語圏のインターネットで大きな議論を生みました。
静かな退職に似ている言葉
静かな退職を考えるうえで知っておきたい、似たような概念や言葉について解説します。
中国の「タンピン族」
2021年に中国で流行語となった「タンピン族」という言葉は、静かな退職と類似の意味をもっています。躺平(タンピン)は中国語で「寝そべる」という意味を持ちます。タンピン族は、競争社会や消費社会に抵抗するライフスタイルとして、恋愛や仕事、人生などに対して低い意欲で生きることを肯定しています。
ただし、この言葉は、中国社会への抗議の意味合いが強いことが特徴です。静かな退職は個人のライフスタイルとしての側面が強いため、2つの言葉には明確に違いがあります。
ボアアウト(退屈症候群)
ボアアウトとは、仕事が退屈でやりがいがなく、不満を覚えたり、やる気が低下したりする状態のことをいいます。従業員の早期離職のリスクを高めるほか、健康状態やストレス症状を悪化させるなどのデメリットがあるため、組織としての対策が必要です。
これに対して静かな退職は、仕事の内容や、やる気の有無にかかわらず、従業員の主体的な選択として意識的に仕事を手放している点が、ボアアウトとは異なるといえるでしょう。
日本でも15パーセントの労働者が静かな退職を選ぶ
米国のギャラップ社が2017年に実施した調査で、日本の従業員のうち、熱意にあふれている人は、全体のわずか6パーセント(139ヵ国中132位)であることが分かっています。2023年の調査では、この値はさらに5パーセントにまで減少しました。
また、クアルトリクス合同会社が実施した調査では、日本で正社員として働いている人のうち、15パーセントが「静かな退職」の状態であることも分かっています。
同社の調査は日本で静かな退職を選ぶ人には、以下のような属性があると報告しています。
・40代・50代の中堅
・シニアクラスや一般従業員
・周囲との連携が弱い人々
・パフォーマンスが平均に満たない層
同調査では、勤続年数1年未満の従業員が「静かな退職」を選んでいることはほとんどゼロに近いことが分かっています。組織の文化や風土によって「静かな退職」が起きている可能性もあるといえるでしょう。
静かな退職が増える理由
静かな退職を選ぶ人が増えている理由には、どのようなものがあるのでしょうか。詳しく解説します。
ワークライフバランスへの肯定感
近年肯定的に受け取られているワークライフバランスの充実が、静かな退職につながっていると考える人もいます。仕事だけでなく、プライベートも充実させたいと考える人が増えた結果、労働時間を自主的に調節する動きが生まれました。
新型コロナウイルス感染症で起きた価値観の見直し
アメリカでは、新型コロナウイルスの流行中、大量自主退職時代(Great Resignation)が訪れました。これは、生き方や家族との関わり、仕事の意味、人生で成し遂げたいことなどを考えた結果、辞職を選択する人が増えたことを指す言葉です。静かな退職を、大量自主退職時代の影響で起きたムーブメントだと考える人もいます。
静かな退職のメリット【従業員】
静かな退職には、従業員にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。
ワークライフバランスの追求
静かな退職を実施している場合、基本的には定時で帰宅することになります。家族や友人と過ごしたり、他のことに興味を持ったりする時間が増えると推測できます。また体力や気力を維持できるため、仕事へのモチベーションを保てるでしょう。
仕事の質が高まる
新しい仕事に次々と手を出さないため、担当している仕事を確実にこなせます。このため、質の高いアウトプットが見込めます。プライベートで時間ができるため、スキルアップしたり、新たな視点を持てたりすることもあるかもしれません。
静かな退職のデメリット【組織側】
一方で、静かな退職はトラブルや問題を生み出すこともあります。組織側のデメリットについて、詳しく見ていきましょう。
組織の風通しが悪くなる
静かな退職を実施している従業員は、仕事に必要以上のコミットを見せません。静かな退職を選ぶ従業員が増えれば、組織内で積極的に仕事に取り組んだり、発言したりする人が少なくなることも考えられます。
組織を向上させる意見が出づらくなったり、やる気のある特定の従業員に、仕事が偏ったりするなどの問題も生まれるかもしれません。
成長しなくなる
決められた仕事やルーチンワークにしか取り組まない従業員が多くなれば、組織の成長は見込めません。熱意を持って働いている周囲の人々のモチベーションも下げてしまうかもしれません。
静かな退職のデメリット【従業員側】
従業員側にも、静かな退職はデメリットをもたらします。
仕事に情熱を持てなくなる
熱意をもたずに仕事を続けていると、働く意義が見出せなくなることもあるでしょう。意義や意味を見出せないことに1日何時間も使うことは、人によっては強い苦痛に感じることもあります。静かな退職を選ぶより、楽しく働ける職場を探すべきかもしれません。
組織との関係が悪くなる
必要最低限の仕事しかしない場合、組織からの心理的印象は必然的に悪くなってしまいます。長く勤めることが難しくなるケースも考えられるでしょう。
静かな退職を検討している従業員の兆候
静かな退職を検討している従業員を見分けるポイントについて、詳しく解説します。
行動が少なくなる
ミーティングで無口になったり、率先した行動がなくなったり、義務ではないイベントに参加しなくなったりする人は、静かな退職を検討している可能性があります。
仕事の質が下がる
仕事が納期や締め切りまでに終わらないことや、質がこれまでより大幅に下がることなども兆候の1つです。
ただし、この場合「業務量が多すぎる」「燃え尽き症候群になっている」など、別の問題が隠れていることもあります。静かな退職だと決めつけず、従業員とコミュニケーションを取り、何が問題か確認した上で検討することが重要といえるでしょう。
静かな退職を防ぐ方法
組織にとってはデメリットの多い静かな退職。発生を防ぐためには、どのような対策をとればよいのでしょうか。
仕事を優先度順に分類する
静かな退職を検討している従業員のなかには、どれだけ仕事に熱意を込めても、給与や評価にその頑張りが反映されないことに、フラストレーションを抱えている人もいます。必要不可欠な仕事と、本来であればプラスアルファとして認められるべき仕事を仕分けることで、従業員のモチベーションを維持することを検討してみましょう。
従業員の意見を聞く
仕事にやりがいを感じられないことも、従業員が静かな退職を検討する大きな理由の1つです。定期的にヒアリングやアンケートなどを実施し、モチベーションを高められる職場づくりができているかどうか、チェックしましょう。
従業員にミーティングなどで意見を求め、組織が従業員を気にかけていることをアピールすることも重要です。従業員の考えを認められる組織を作りましょう。
オンオフをきっちり分ける
過大なコミットを求められすぎることで、一種の燃え尽き症候群として、静かな退職を選んでしまう従業員も少なくありません。
プライベートの時間を削ってでも仕事に取り組むべきだと考える文化は、むしろ従業員の反発を招きます。勤務時間外の電話やメールへの対応を要求しないことなどを徹底し、従業員のワークライフバランスを重視した働き方を検討しましょう。
「静かな採用(Quiet Hiring)」に取り組む
近年、静かな退職と同じように話題になっているのが「静かな採用」です。これは、新規人員を雇用せず、今いる従業員に新しいスキルを身につけてもらったり、新たな責任を与えたりすることを意味します。
調査会社Gartner, Inc.(ガートナー)が2023年に新しく提案した言葉で、従業員の定着率や貢献度、生産性向上をねらえることがメリットです。
まとめ
コロナ禍をきっかけに、2022年ごろから注目されている「静かな退職」。組織の成長を妨げるため、できれば避けたほうが無難とも考えられます。
静かな退職を防ぐための方策として注目されているのが「静かな採用」です。従業員に新たなスキルや責任を与えるもので、仕事へのやりがいを高め、従業員のコミットメントを増やせると考えられています。
フランクリン・コヴィー・ジャパンでは、静かな退職とは逆のアプローチとして「静かな採用」を提唱しています。詳しくは「あなたの組織が『静かな採用』を検討すべき理由」をダウンロード(無料)してご確認ください。
最高の業績を上げる組織を作るためには、リーダー育成や個人の習慣形成、企業文化の構築、共通のシステム構築などが欠かせません。フランクリン・コヴィー・ジャパンではこの資料のほかにも、お客様の成功に貢献するサービスや支援を提供しています。