社員教育の方法として、コーチングを取り入れる企業が増えています。業績を上げるために自社でも取り入れるべきか悩んでいる管理者や経営者もいるでしょう。
この記事では、ビジネスにおけるコーチングの重要性や手法などを解説します。コーチングを取り入れたいと考えている管理者や経営者の方はぜひ参考にしてください。
目次
ビジネスにおいてコーチングを行う意味とは?
ビジネスにおいてコーチングはどのような意味を持つ手法なのでしょうか。ビジネスシーンでのコーチングとは何か、解説します。
ビジネスシーンにおけるコーチング
ビジネスにおけるコーチングとは、上司が部下の話に耳を傾け、質問や提案などを通して相手に気付きを与えること、またはその手法です。コーチングはさまざまな業種や業界で、ビジネスにおける目標達成のひとつの手段として活用されています。
ティーチングとの違い
コーチングはあくまでも対等な関係で、対話を通じて本人が気付きを得るなかでの目標達成を目指します。ティーチングは上下関係があるなかで、一方的に相手を指導する手法であるという点が、コーチングとの明確な違いです。
コーチングは意味がないのか
コーチングは意味がないといわれることもありますが、日本ではまだ歴史が浅く、認知度が低い教育手法です。上司や指導する側にコーチングのスキルがない、あるいはコーチングの意味を理解していない状況では、効果が出にくいといわれています。
コーチングの歴史・起源
コーチングはいつ、どこで生まれた教育手法なのでしょうか。コーチングの歴史や起源を紐解いてみましょう。
コーチング(coaching)という言葉の由来
コーチングの「コーチ」とは、もともと「馬車」という意味です。馬車が目的地まで、大切な人を送り届ける役割を果たすことから、「人が目標を達成できるように導く」という意味に派生しました。
コーチングの起源
コーチングという言葉がはじめて登場したのが、1959年に出版されたハーバード大学准教授マイルズ・メイスの著書『The Growth and Development of Executives』です。その後、コーチングは多くの出版物に登場するようになりました。
コーチングの発展
1990年代になるとアメリカでコーチ養成機関が登場し、コーチング技術や理論は著しい発展をみます。現在では、多くの企業や組織がコーチングを取り入れ、正しいコーチング方法による業績の発展に寄与しています。
ビジネスにおけるコーチングの重要性
昨今ではビジネスを取り巻く環境の変化が著しいなか、自主的に判断・行動できる人材が求められています。自主性を持てる社員は仕事に対するモチベーションも高く、大きな成果を上げると考えられるためです。
このような状況下で、人材育成を目的とするコーチングのスキルは、ますます重要視されてくるといえるでしょう。
コーチングを導入するメリット
コーチングを導入することで、企業には大きなメリットがあります。ここでは、コーチング導入によって得られるメリットを解説します。
主体的に行動できる人材を育成できる
自ら考え行動できる人材を育てられることが、コーチング導入の大きなメリットです。コーチングではあくまでも、育成される側が自分の力で考え、必要なものを選択して行動に移すため、モチベーションの向上にもつながります。
可能性を引き出せる
コーチングにより、社員はものごとを多面的に捉えられるようになります。本人も気づかなかった新たな可能性やアイデアを引き出す効果をもたらすでしょう。具体的に成果が上がることで本人の自己肯定感も上がり、さらなる可能性を生み出す好循環が期待できます。
コーチングのデメリット
良いことばかりにみえるコーチングですが、デメリットもあります。コーチングのデメリットは以下のとおりです。
効果を実感できるまで時間がかかる
コーチングは対話を通じて相手を導く手法なので、ティーチングよりも効果が出るまでに時間がかかることが難点です。ティーチングのように上司や指導者が答えを明確に提示するのではなく、本人が気づき、実行するまで待たなければなりません。
コーチングを行う側のスキルが必要になる
コーチングを行う側にスキルがないと、十分な効果が生まれないこともデメリットの1つです。例えば、効果の発揮を急ごうとして答えを誘導するような質問をしたり、目標設定を高くしすぎたりすると、コーチングの効果が出なくなってしまいます。
コーチングの導入が向いていないケース
コーチングには、導入が向いていないケースもあります。例えば、以下のようなケースでは導入を見送ったほうが良いかもしれません。
スキルのあるトレーナーがいない
コーチングのトレーナーとしてのスキルを身に着けるには、トレーニングや実務経験が必要です。十分なスキルがあるトレーナーがいない場合は、まずトレーナーを育成しなければなりません。
課題や仕事を短期間でこなす必要がある
前述のとおり、コーチングの効果が出るまでには時間がかかります。したがって短期間でこなさなければならない課題や仕事にはあまり適していません。長い目で見たスキルアップを考えている場合は、コーチングも取り入れると良いでしょう。
コーチングの基本的な手法・質問例
難しいといわれるコーチングの手法について、知りたい方も多いでしょう。ここではコーチングの基本的な手法として「GROWモデル」の質問例を紹介します。
Goal:目標を設定する
はじめに、仕事に対する目標を設定します。部下がどのようなゴールを思い描いているのかを、質問によって引き出していきましょう。
【質問例】
・この仕事に対する目標は?
・達成したいことは?
目標がまだ明確でない部下もいるかもしれません。その場合はコーチの側から答えを提示するのではなく、自分で考えてもらうようにします。
Reality:現実を確認する
次に、Goalで設定した目標に対して、現実に今、自分がおかれている状況を客観的に確認します。
【質問例】
・現在の状況は?
・目標の達成度は?
ここで確認する現実は、現時点でのスタート地点でもあります。今まで目標のために何をしてきたか、成果を出すために邪魔になっていたものがないかどうかもあわせて確認してみましょう。
Resource:資源を見つける
これは、目標達成のために人やモノ、金などの資源(リソース)を見つけるプロセスです。以下のような質問でリソースを見つけていきます。
【質問例】
・過去の企画で活かせるものは?
・協力を得られそうな人は?
仕事上関わりあいのある人、協力を得られそうな相手などは、無意識に関わっていてもなかなか協力を得ることはできません。過去の経験についても同様です。成果に影響を与えそうなものを明確にすることが大切です。
Options:選択肢を探す
以下のような質問を通して、目標達成のためにどのような選択肢があるのか考えます。
【質問例】
・新しい方法はない?
・他社ではどんなやり方をしている?
目標達成の方法について、既に成功例を見たことのある人や、独創的なアイデアを持ちながらもなかなか実行に移せず尻込みをしている人もいます。頭のなかにあるものに具体性を持たせるとともに、目標達成を阻害するものについても明確にしていかなければなりません。
Will:意志を確認する
最後のステップは、目標達成のための意志を確認することです。意志とは、いわばやる気や、具体的な行動のスイッチです。こんな質問が適しています。
【質問例】
・何から取り組む?
・今やるべきことは何?
最初に自分で決めた目標は、自分で決めたものであるため、ある程度のやる気をもって取り組める人が多いでしょう。何から始め、どう行動するかを決めることで、具体的に行動に移しやすくなります。
コーチングに必要な3つのスキル
コーチングを行うには、3つのスキルが必要になります。それぞれについて解説します。
傾聴するスキル
傾聴のスキルとは、相手の話に耳を傾け、受容・共感するスキルを示します。相手の話を途中で遮ったり、自分の主観で相手の話の内容や、相手の気持ちを決めつけたりしてしまう人には、コーチングは向きません。あくまでも相手が主体の対話をすることが必須条件です。
質問するスキル
コーチングは、相手に質問をして、答えを導き出す手法です。目的に対して、適切な質問をするスキルが必要です。質問のしかたも、威圧的でなく、答えを誘導することなく、相手の本心を聞き出せるよう配慮されたものでなければなりません。
承認するスキル
承認するスキルとは、相手の長所を見つけ、言葉や態度で示すスキルです。人は自分を承認してくれない人に対して、正直な気持ちやアイデアを話そうとはしないものです。コーチングの本来の目的を果たすためには、相手を承認する必要があります。
コーチングのスキルが身に着けられる資格
現在、コーチングのスキルを身に付けられる資格もいくつか登場しています。以下のような資格があります。
一般社団法人日本コーチ連盟の資格
日本コーチ連盟とは、コーチングの普及・発展を目指している団体です。認定資格として、「プロフェッショナル・コーチ」「コーチ」「コーチング・ファシリテータ」の資格があります。
一般社団法人国際コーチ連盟(ICF)の資格
国際コーチ連盟はコーチングの能力向上をリードしてきた団体です。個人の認定資格として「アソシエート認定コーチ」「プロフェッショナル認定コーチ」「マスター認定コーチ」の3種類を設けています。
一般社団法人生涯学習開発財団の資格
一般社団法人生涯学習開発財団は文部科学省所管の団体で、さまざまな資格を後援しています。コーチングに関する資格としては「認定コーチ」「認定プロフェッショナルコーチ」「認定マスターコーチ」の3つです。
コーチングを導入する際のポイント
企業でコーチングを導入する際には、いくつかのポイントをおさえておく必要があります。おさえておきたいポイントは以下のとおりです。
目標を明確にする
コーチングを導入することで、企業として、あるいは部署として目指す目標を明確にしておきましょう。コーチングを通して部下にどうなってほしいのかを具体的に決めておくと、より効果的なコーチングにつなげることができます。
コーチングのやり方を決める
コーチングのやり方を社内で決める必要があります。社内でコーチングスキルを身に着けた人材を確保するほかに、外部からプロのコーチを呼ぶ方法もぜひ検討したい方法です。コーチングで高い効果を上げたいなら、有資格者や、経験豊富なプロに任せるほうが効果的といえます。
コーチングの活用例
ビジネスにおいてコーチングは、部下や管理職の人材育成、新人の育成、ストレスマネジメントなどに活用されています。コーチングは従来のトップダウン式の育成に比べてストレスが少なく、長期にわたって活躍できる人材が育ちやすいことが特徴です。経営者や管理職がコーチング認定資格を取得し、人材育成力の強化につなげている例もあります。
まとめ
コーチングはビジネスにおいて、人材育成の分野で大きな効果が期待できる手法です。社員が主体的に行動し、高いモチベーションで大きな成果を出せるよう導けるでしょう。ただし、コーチングを取り入れるには、コーチ側にも多くの経験やスキルが必要となります。
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