「Engagement」(エンゲージメント)は、現在、人事・人材開発関連ではもっともなじみのあるワードかもしれません。エンゲージメントは、モチベーションとも深く関与し、多くの組織はエンゲージメントのスコアを上げるために、様々な施策を展開しています。
5つのポイントの中で、先行してご紹介した①Cascade(カスケード) ②Initiative(イニシアティブ)の2つは、この現場スタッフの「Engagement」(エンゲージメント)がなければうまく機能しません。どれだけ上位組織でうまく戦略を策定し、下位組織におろしたところで、エンゲージメントの構成要素である、現場からの信頼感や情熱、コミットメント、モチベーションがなければ、うまくいくはずはないからです。
特に昨今は、IQ(Head)をマネジメントするだけでなく、EQ(Heart)の面においても、マネジメントしていく重要性が高まっています。モチベーションやエンゲージメントもリーダーの竜巻業務(日常業務)のひとつとなっているようです。
いかに自主性を与えるか
エンゲージメントを高める大きなポイントのひとつは、いかに「自主性」を持たせるかにあります。しかし、多くの組織においては、モチベーションやエンゲージメントを高めなければならないという強い想いから、何かを与えることばかり行っているのではないでしょうか。いわゆる「魚なの釣り方を教えるのではなく、魚を与え続ける」アプローチを継続してしまっています。しかし、逆にそれでは、依存心が増してしまい、自主性に関して言えば、むしろマイナスとなるでしょう。
そういう意味では、現在の多くのリーダーは、大きなパラダイム・シフトが必要なのかもしれません。現在のような変化の激しい時代においては、優れた戦略と個々の高い能力だけで、戦略が実行され目標が達成されることはありません。一人一人の高いエンゲージメントがなければ、継続的に大きな成果を得続けることは不可能です。
特に、多忙な毎日の中で、これまでに得たことのない大きな成果を得ようとするのであれば、現状のプロセスを打破する、大きなエネルギーが必要です。コーチ役が号令をかけるだけで、スタッフが動き、成果が生まれる時代ではないのです。
また、エンゲージメントの数値を気にするがあまり、スタッフに気を遣い、気持ちよく仕事をしてもらうために、話し方や接し方を改め、優しく接することをエンゲージメント対策と勘違いするリーダーもいます。それではむしろ逆効果であることは言うまでもありません。
HeadとHeart
戦略実行のプロセスにおいて、エンゲージメントという原則がどうすれば機能するのでしょうか。
組織目標(戦略)について長い時間協議し、アイデアを出し合い、結論まで導くことができた当事者のリーダーは、設定した目標(戦略)について、深く理解し、共感しているでしょう。しかし、できあがった目標(戦略)だけを伝えられたスタッフは、どこまで共感しているでしょうか。
目標や戦略、つまりコンテンツだけを伝えても、そのコンテンツを生み出した背景となる「コンテキスト」についても深く理解されない限り、本質的な理解には至りません。
コンテキストとは、コンテンツの文脈、生まれた背景、意味、理由、また、コンテンツを生んだ人たちの想い、考え、パラダイムのことです。なぜその目標(戦略)になったのか、その先にはどのようなビジョンが待っているのか、自分たちはどのような思いでこの目標(戦略)にしたのかを明確に伝える必要があります。
コンテキストとは、論理的なHeadに対し、思いを表すHeartであると言えます。戦略実行に関しても、何を、どうすれば良いのかという理解(Head)だけでなく、意志や思い(Heart)の双方が伴わなければ、どれだけ素晴らしい方向性を論理的に詰めたところで、実行され、そしてその継続性を保つことは困難でしょう。
Head & Heartとは、言い換えれば「理解と共感」です。組織の上位から下位のスタッフにカスケードする(落とし込み)の際に、目標(戦略)の理解と同時に共感を求めていくプロセスに入る必要があります。組織ピラミッドにおいて、実行ギャップが存在する原因のひとつは、スキル系のテクニカルな手法と同じ程に、このマインド系の要素です。このプロセスに関して言えば、どちらかといえば、日本の組織においては、非常に重要な問題であるにもかかわらず、あまりうまくできていない面があるかもしれません。
あるいは、戦略策定の段階においてすら、コンテキストを含めたコンテンツの理解と共感ができていないリーダーもいます。表向きには賛成しても、心のどこかでは不満もあるため、心底納得しているわけではありません。そのリーダーが部下に対して、エンゲージメントを高めながら、戦略を伝えることなど不可能でしょう。
リーダーは、自分自身がHead & Heart双方で深くコミットしたうえで、メンバーに対しても同様に、重要な戦略(目標)を伝える必要があるのです。