目標を上から下に伝えれば理解される?
目標を上位組織が決め、現場レベルまで落とし込もうとするとき、通常の組織では、「上(上位組織)から下(下位組織)に伝える」ことが行われます。
そして伝達された目標は、一般的には、MBO(目標管理制度)と呼ばれる制度で管理され、トップから現場までのアライメントを図ろうとします。制度上(見た目)は、戦略目標がトップレベルで策定され、上位組織からフロントラインまで落とし込まれている状態です。
上位組織から見れば、「上から下に伝えたのだから、あとは現場で。以上!」ということでしょうか。
これはどこの組織でも、目標を掲げる限りはしていることでしょう。しかし、Cascadeとは言いながら、単に下部組織に伝達しているだけなら、理想的でも効果的でもない、単なる業務目標の落とし込みの状態です。実際には「以上!」では済みません。
実際には、どのような状況なのでしょうか。
フランクリン・コヴィーが行った調査結果によれば、「活動には落とし込まれていないものの、戦略は理解している」と思う経営者・管理者は32.9%、「戦略がつくられた理由や背景も含め、確実に理解しており活動に落とし込まれている」とする経営者・管理者は25.4%おり、活動し、成果を出しているかどうかは別としても、戦略の理解は約半数のマネジメント層が認めているようです。 メンバー側からの理解はともかく、マネジメント層は「理解しているだろう」と考えているようです。
あなたの組織ではいかがでしょうか。
本来であれば、「戦略がつくられた理由や背景も含め、確実に理解しているし、活動に落とし込まれている」というのが、求められているかたちでしょう。経営陣も、そうなるように日々マネジメントを行っているはずです。しかし、実態は、この調査結果にもあるように、約4社に1社しか、目標を理解し、活動に落とし込まれている状態にはなっていません。
なぜこのようなことになっているのでしょうか。
今期の目標は「前年対比X%アップ!」
まず、多くの場合、上位組織で目標が戦略的に設定されていません。もっとも避けたい状態は、上位リーダーが、コンセプチュアル・スキルを行使せずに、単に慣習的にルーティン目標を伝言していっているものです。
例えば、「売上対前年度X%アップ」という目標が最たるものでしょう。その「X%」に何の根拠もなく、これまでの慣習通りに、戦略的な根拠や新たな投資などに関しては何も提示されず、あくまでリーダーの希望的観測のみです。実現する方法を考えるのは現場だと言わんばかりかもしれません。
これでは現場では、何か新商品や新サービスでも用意があるのか、ないのであればどのように同じリソースでどうやって売上拡大すればいいのか、検討もつかないでしょう。かといって、リーダーが現場に入り込み、戦略・戦術をともに考え策定することもなく、ただ放任してしまうことも少なくありません。また、こういうリーダーに限って、「現場が目先の仕事だけして困る!」と言うことが少なくありません。現場にとってはたまったものではないでしょう。
こうなると、問題は現場にあるのではなく、リーダーの目標設定が問題であると指摘せざるを得ません。
こうした状況は、これはある時突然に起こるのでなく、このようなプロセスそのものが「文化」になってしまっているのかもしれません。そして、リーダーや経営企画担当者、人事トップは、このような問題を把握し、そこで「違った結果を得るために違ったことを」しようとしますが、そのアプローチとして、トレーニングで解決しようとするわけです。
リーダーはスタッフが納得できる目標・戦略を策定
環境の変化も少なく、右肩上がりの成長が続いている時代はよかったのかもしれません。向かうべき方向は明確で、現場マネージャーの号令どおりに実行さえすれば、望む結果を得ることができたのでしょう。
ところが時代が変わり、環境の変化が激しく、テクノロジーの進歩や情報の量が、かつてとは比べ物にならないほど大きくなりました。大きなビジョンは変わらなくとも、戦略・戦術は臨機応変に変えていく必要があります。さらに、スピードが要求され、その都度上司に伺いを立てる時間的余裕も少なく、現場レベルで判断し、対応する必要もあります。
加えて、メンバーのモチベーションも大きく変化してきています。組織に対するロイヤリティにおいても、終身雇用・年功序列になんら疑問を挟まない時代とは違い、働き方は多様化し、働き手にある程度の裁量も増えてきました。
「Cascade」を効果的に行うには、まずリーダー自ら戦略的な背景、コンテキストを含めた、現在の環境にふさわしい目標・戦略を策定し、十分なコミュニケーションによって全スタッフが納得したうえで、それぞれが実行計画を策定することが必要となります。