インクルージョンという言葉を見聞きする機会があるものの、明確に意味を把握しきれていない人もいるでしょう。インクルージョンには包括などの意味がありますが、ビジネスシーンでは少しニュアンスが異なります。従業員が公平に業務に参加し、会社に貢献するという意味合いがあるのです。
本記事では、インクルージョンについて解説します。ダイバーシティとの関連などもあわせて見ていきます。
目次
インクルージョンとは?
インクルージョン(inclusion)は、直訳すれば「包括」「抱合」などの意味をもつ言葉ですが、ビジネスで用いられる場合には、意味合いが異なります。
ビジネスで用いられるインクルージョンは、社内の誰もが仕事に参画できて、組織に貢献できるチャンスが公平にあることが前提です。従業員個人が持つスキルや考え方、価値観などが認められて活用される環境を目指すものとされています。
また、ダイバーシティ(多様性)を受け入れる考え方としても広がりをみせています。
インクルージョンの語源や普及の背景
インクルージョンを深く知るためには、語源や普及の背景を知ることも大切ですので、ここで解説します。
インクルージョンの語源
インクルージョンの語源は、フランスの社会的経済格差に由来します。1960年代のフランスでは、社会的排除(ソーシャル・エクスクルージョン)という言葉が使われるようになっていました。その後、社会的に排除された人たちを、社会の中で支える必要があると唱えられ「インクルージョン」という概念が生まれました。
教育分野でのインクルージョンは、総合教育を超える考え方として普及します。教育概念から社会へと広がり、社会的弱者を排除しない「ソーシャル・インクルージョン」として浸透したのです。
インクルージョンが発生した背景
インクルージョンは、1960年代のアメリカでの公民権運動によるダイバーシティの推進の中で発生します。公民権運動の広がりとともに、ダイバーシティを推進する企業が増え続け、1980年代に「ダイバーシティ&インクルージョン」が誕生します。
アメリカのビジネス界でインクルージョンは、「メンバーがグループの中でスキルを発揮し十分に貢献できる状態」と定義されました。ダイバーシティ&インクルージョンについては次で解説します。
ダイバーシティとインクルージョンとは?
それでは、ダイバーシティについて解説し、ダイバーシティとインクルージョンの関係性や日本における浸透状況を確認していきましょう。
ダイバーシティとは
ダイバーシティを直訳すれば「多様性」 ですが、多様な人々が活躍できる社会や組織を目指す考え方の1つとして捉えられています。異なる特徴や属性を持つ人々が共存したり、個々人の違いを認めた上で、人材を活用したりする際に使われる言葉です。
例えば、ダイバーシティを重視している企業では、従業員1人1人の能力や考え方を重要視しています。
ダイバーシティとインクルージョンの関係性
ダイバーシティとインクルージョンの関係性を表すためには、まず、ダイバーシティとインクルージョンの違いを知らなければなりません。インクルージョンは個々人を生かす考え方であり、ダイバーシティは個々の多様性を認める考え方です。
両者は別の考え方ですが、社会や企業においてはダイバーシティとインクルージョンを効果的に作用させることが必要不可欠と言われています。
日本におけるダイバーシティとインクルージョンの浸透状況
もともと多種多様な人種を受け入れてきた欧米に比べると、日本でのダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みは遅れていました。しかし、経済産業省のダイバーシティ経営推進を背景に、多様な人材を採用し活用する企業も増えてきています。
日本ならではのダイバーシティは、実質的にダイバーシティ&インクルージョンを目指しているケースが多いのが特徴です。ただし、中にはダイバーシティ=女性活躍推進と捉えている企業があるのも実情です。
インクルージョン推進によるメリット
インクルージョンの推進で、企業が感じられる大きなメリットは2つです。それぞれの内容を確認していきましょう。
従業員の定着率が向上する
インクルージョンは、多種多様な人材の多種多様な個性を認め活かす考え方であり取り組みです。従業員たちは、会社から大切にされていると感じたり、会社の役に立っていると実感したりすることで自己肯定感や自己有用性を高められるのです。
このような職場環境であれば従業員は心理的安全性(詳しい解説はこちら)を確認でき、安心して働けるでしょう。心理的安全性が確認できれば、離職率が下がり従業員の定着率が向上する効果が期待できます。
社会的評価につながる
インクルージョンを推進しているということが社内外に知れ渡れば、企業の社会的評価を高めることにつながります。なぜなら、インクルージョンに取り組んでいること自体が、健全な企業の証でもあるからです。
インクルージョンの推進は、企業の社会的責任を果たす一環にもなっています。積極的に取り組むことで、企業のイメージアップにも大きく貢献します。例えば、経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」や「なでしこ銘柄」のベストプラクティス企業として選定されれば、社会的評価は確固たるものになるでしょう。
ダイバーシティとインクルージョンを導入する際のポイント
ダイバーシティとインクルージョンを導入する際にはポイントがあります。知っておけば自社で取り組みやすくなります。
企業風土や体制を整備する
ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む前に、まずは社内の制度や体制を整備しましょう。社内のバリアフリー化や道幅などのインフラ整備や、休憩休暇制度の見直しなども必要となります。
また、評価方法の見直しなども必要となるかもしれません。多種多様な人材が活躍できるように、ハード面とソフト面の体制を整えることが大切です。
企業内の意識を変える
ダイバーシティ&インクルージョンを導入するためには、管理職をはじめとした従業員全員が多様性を受け入れる意識をもっと持つ必要があります。意識を持ち自らを改善していこうと言う意欲がなければ、本来のダイバーシティ&インクルージョンを達成することは難しいでしょう。
まずは、互いを尊重する意識を持つことがポイントであり、アンコンシャスバイアスに気づき対処するためのプログラムの活用が有効です。
公平に発言できる環境を作る
ダイバーシティ&インクルージョンの多様性を担保するためには、公平に発言できる環境を作ることが有効です。垣根なく発言できる社内風土を作ることは、一朝一夕にいかないかもしれませんが、粘り強く環境整備する必要があります。
誰でも公平に発言できる環境が整備されれば、個々の従業員の価値観や強みを活かせるようになるため、これまでにないイノベーションが生まれる可能性もあります。
インクルージョン導入における注意点
インクルージョンを導入する際には、注意しなければならないポイントがあります。重要なものを2つ解説します。
推進そのものと効果が現れるまでに時間がかかる
インクルージョンを導入・推進したからといって、すぐに効果が現れることは稀です。社内のインクルージョンを受け入れる風土づくりも一長一短ではすみません。社則や制度改定が浸透するまでにも時間を要します。何よりも、管理職をはじめとする従業員の意識改革が難しいケースも多く、粘り強い対話を行ない、従業員の理解を浸透させることが必要となるでしょう。
推進度合いの把握方法
インクルージョンの推進には、進捗状況の把握が必要です。しかし、インクルージョンは、ダイバーシティの定量化のように数値化しにくいこともあって、進捗状況の把握が難しいのが現状となっています。個々の従業員に対して、個別面談とアンケートを活用しながら、地道で丁寧な状況把握に努めましょう。
ダイバーシティとインクルージョン導入の成功事例
ダイバーシティとインクルージョンを導入した企業の成功事例を紹介します。自社で取り入れる際の参考にしてください。
「スキル」に着目したプログラムの無償提供
プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパンでは、ダイバーシティ&インクルージョンに必要な「スキル」に着目して、スキルが身につくプログラムを開発しました。ここでのスキルは、「意識しながら他社の意図や意見を受け入れる姿勢」などです。
「企業文化」「制度」「スキル」を3つの柱としていて、従業員がスキルを身につけることでプログラムが導入しやすくなります。
メンター・キャリアアドバイザーの配置で女性管理職の拡大を目指す
日産自動車は、ルノーとの提携をきっかけにダイバーシティ推進を開始しました。目的は、メンター・キャリアアドバイザーを配置して、女性管理職を増やすことです。自動車購入の意思決定は、約60%が女性であることにも着目しています。
ダイバーシティとインクルージョンを導入した結果、同社の女性管理職比率は、1.6%(2004年)から10.1%(2020年)に上がりました。
まとめ
インクルージョンは、社会的背景により教育からビジネスへと浸透した概念です。ダイバーシティと作用させることで、より良い職場環境実現させ、従業員の活力が向上します。ただし、ただ概念を従業員に押し付けるだけでは実現は難しいため、計画的に進めることが必要です。
フランクリン・コヴィー・ジャパンでは、インクルージョンやダイバーシティを組織に取り入れるための研修プログラムを提供しています。組織にインクルージョンやダイバーシティを導入する方法に悩んでいる方はフランクリン・コヴィー・ジャパンの提唱する6つのアプローチを是非取り入れてみてください。
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