心理的安全性の確保された職場は、生産性が上がりやすいとされており注目を集めています。自社の働きやすさ向上などを目指している担当者の中には、心理的安全性に着目している人も多いのではないでしょうか。
今回は、心理的安全性が高い組織と低い組織との違い、心理的安全性を取り入れる方法、注意点などを解説します。自社で取り組む際の参考にしてください。
目次
心理的安全性とは
心理的安全性とは、サイコロジカル・セーフティ(psychological safety)の日本語訳で、Google社の発表をきっかけに多くの人に注目されるようになりました。
元は、1999年にエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念です。同氏は、心理的安全性を「チーム内は対人リスクがなく、安全な場所であるとメンバー間で共有された状態」と定義づけています。
心理的安全性が不足している組織に起こることとは
心理的安全性が確保されていない職場で働く従業員は、4つの不安を抱えながら働いています。エドモンドソン教授がスピーチ・フォーラム「TED」で示した4つの特徴を交えて紹介します。
1.無知だと思われる不安
無知だと思われる不安とは、質問や相談した際に相手に「こんなこともわからないのか」と思われてしまうのではないかと不安になることです。この不安があると、質問や相談がしにくくなり、不明点を解消できずミスが生じるかもしれません。
十分なコミュニケーションがとれないことが原因で、孤立する従業員がでる可能性もあります。
2.無能だと思われる不安
無能だと思われる不安とは、社内やチーム内で「こんなこともできないのか」と思われるのではないかという不安です。この不安を抱えていると、ミスを報告しなくなったり、自分のミスを素直に認めなくなったりするなどの悪循環に陥ります。
トラブルやミスは、後になればなるほど大きくなる傾向があり、大きな損害や重大な事故の原因となるケースもあります。
3.邪魔をしていると思われる不安
邪魔をしていると思われる不安とは、社内やチームのメンバーから「嫌われているのではないか」「チームの邪魔になっているのではないか」と思われる不安のことです。
この不安があると発言が少なくなり、自発性も減退します。ベストなパフォーマンスを発揮しにくくなり、結果的に組織の損失へとつながります。
4.ネガティブだと思われる不安
ネガティブだと思われる不安とは、「消極的で否定的な人だ」と思われるのではないかという不安のことです。社内やチームの和を乱さないことに過敏になるため、積極的な発言や建設的意見を述べることを躊躇します。
組織やチームが抱えている問題を改善できる能力があっても、それが発揮されないのは大きな損失です。
心理的安全性の高さが組織にもたらす影響
心理的安全性の高さは、企業を含む組織にメリットをもたらします。Google社の調査である「プロジェクト・アリストテレス」では少なくとも4つメリットがあるとされています。
Googleが公表した内容も交えて、心理的安全性の高さが組織にもたらす影響を確認していきましょう。
エンゲージメントの向上、離職率の低下につながる
エンゲージメントとは、従業員が持つ会社に対する思い入れや愛着心を指します。心理的安全性が高ければ、エンゲージメントの向上につながります。組織へのエンゲージメントが高まれば離職率が低くなり、優秀な人材を逃さずに済むのがポイントです。
心理的安全性が高まり、エンゲージメントの高い従業員が増えることで、チームのパフォーマンスも向上し、従業員の能力の掛け合わせによるシナジー効果も期待できます。
情報やアイデアが多く集まり、イノベーションや改善が生まれる
心理的安全性が高い環境下なら、従業員が忌憚なく意見を言えるため、多種多様な意見やアイデアが集まります。また、従業員間で良好なコミュニケーションがとれることから、良い情報が共有されやすくなります。
全社的に活発な意見交換が行われれば、マネジメント層以外からもイノベーションが生まれやすい組織になるでしょう。
収益性の高い仕事をすることができ、効果的に働くと評価されやすくなる
Googleのリサーチチームの調査結果では、心理的安全性を高めることで、「効果的に働く」と評価される機会が2倍になるとされています。効果的な働きとは、収益性の高い仕事ができているということです。
多様性を認め合うことができる
心理的安全性が高い職場環境であれば、多様性(ダイバーシティ)を認めやすくなります。多種多様な価値観やアイデアを認め合うことで創造性が高まり、これまでになかったイノベーションを生み出す可能性がアップします。
心理的安全性が「効果的なチーム」の土台になっている
Googleの研究結果では「効果的なチーム」とは、「チーム全員のチームへの評価が高く、常に高い業績を上げているチーム」とされています。効果的なチームには5つの因子があるため、次に重要度順に記載します。
出典:Google re:Work「効果的なチームとは何か」を知る
Googleによる、チームの効果性に影響する5つの因子
Googleの研究結果によれば、チームの効果性に影響する因子は5つです。以下に重要な順で記します。
・心理的安全性:リスクのある行動をとっても安全だと思える環境になっている
・相互信頼:メンバーがお互いに高いクオリティで仕事を仕上げてくれると信じられる
・構造と明確さ:役割や計画、目標などやるべきことが明確である
・仕事の意味:意味のある仕事をしていると感じられる
・インパクト:メンバー全員が意義のある仕事をしており、良い変化を生むものだと思っている
出典:Google re:Work「効果的なチームとは何か」を知る
あなたの組織に心理的安全性があるか確認する方法
心理的安全性が確保されていると、仕事の効率性があがります。効率性をあげるためには、あなたの組織やチームに心理的安全性があるかを把握しなければなりません。ここでは、心理的安全性があるかを確認する方法を解説します。定期的に確認してみてはいかがでしょうか。
エイミー・エドモンドソン氏が提唱した7つの質問を行う
心理的安全性を測る方法として、エイミー・エドモンドソンが提唱した7つの質問があります。質問内容は以下の通りです。
・ミスを起こすとよく批判される
・課題やネガティブなことを言い合える
・異質なものは受け入れない
・リスクが考えられるアクションを取りやすい
・メンバーにヘルプを出しにくい
・自分を騙すようなメンバーはいない
・自分の能力が発揮されていると感じられる
ポジティブな回答が多ければ「心理的安全性の高いチーム」、ネガティブな回答が多ければ「心理的安全性の低いチーム」だと判断できます。
その他、心理的安全性に関わる項目についてアンケート・ヒアリングを行う方法もある
心理的安全性が、確保されているかどうかを確認する方法は他にもあります。自社独自のアンケートを作成し、回答をまとめる方法も有効です。また、ヒアリングすることで、チームメンバーや従業員が心理的安全性を感じられているかどうかも分かります。
心理的安全性を高める方法
心理的安全性を高める方法は、先に解説した4つの不安を取り除かなければなりません。ここではそのための方法を解説します。
チーム全員がポジティブ思考で相互に協力し合うチームを構築する
心理的安全性を高めるには、従業員やチーム全員がポジティブ思考であることが重要です。上司やリーダーを含めた全員が、ポジティブ思考を持つように意識することから始めましょう。
上司やリーダーは、競争よりも協力を促すことに注力し、従業員やメンバー間で助け合う環境を作ることが大切となります。
リーダーや上司はメンバーを尊重する
上司やリーダーは、従業員やチームメンバーを尊重することが大切です。まず、従業員やメンバー全員を、1人の人間として承認しなければなりません。そして、相手の目を見て会話し、価値観の違いなどを認めましょう。
否定や批判は極力避けて、サポート役に徹しましょう。従業員やメンバーが、「自分は会社やチームにとって必要な人間である」と認識することが大事なのです。
さまざまな価値観や意見など、多様性を認め合う
従業員やチームメンバーは、それぞれに価値観が違い意見も異なります。従業員やメンバー同士がお互いに価値観を認め合い、異なった意見に対して耳を傾けることで多様性を認め合えるようになります。
前述しましたが、多様性を認めることは心理的安全性を高めることにつながるのです。
入社後のフォローをチーム全体で行う
新入社員や中途入社の社員など、社内やチームにとっての新人は、新しい環境や業務に慣れるまでさまざまな不安を抱えています。新人が、心理的安全性を得ることも大切ですので、社内やチームが一丸となってサポートするようにしましょう。
具体的な方法としては、OJTによる新人教育やブラザーシスター制度、メンター制度などがあげられます。
1on1をうまく活用する、雑談も重要
1on1で上司と部下との対話を取り入れている企業も少なくありません。1on1を上手く活用することで心理的安全性を高めることが可能です。部署や期間を限定せずに全社的に取り組み、1on1を社内に根付かせることがポイントになります。
質の高い雑談や部下から質問したくなるような雑談をしたり、オープンクエスチョンを投げかけたりしましょう。
心理的安全性につながる評価方法や、目標設定方法を考える
評価方法の改善や目標設定方法を変更することで、心理的安全性を高められます。ミスができない評価方法や他の成績が気になる評価では、安心して仕事ができないケースもあるのです。
個人評価からチーム単位での評価に変更したり、ランク制度を廃止した評価を取り入れましょう。従業員間で賞賛し合う制度や、OKRの導入も効果的です。
心理的安全性を高める際の注意点
心理的安全性を高める際には注意すべき点があります。ここでは、重要な2つの注意点について解説します。
楽なだけの組織にならないように注意する
心理的安全性が高まれば、従業員やメンバーはリラックスした状態で仕事に取り組むことができるようになります。しかし、そもそも仕事への意欲や責任感が欠如している従業員やメンバーは、優しいだけの組織と勘違いする場合もめずらしくありません。
コミュニケーションが馴れ合いになってしまうようでは生産性が低下します。1人1人に責任や目標を与え、適切なタイミングでフォローすることが大切です。
リーダー、上司の役割が重要
上司やリーダーの中には、心理的安全性を高めることが主眼となり、従業員やメンバーに注意や指示を与えない方がよいと考える人もいます。心理的安全性を高めるには、上司やリーダーの役割が重要であることは、エドモンドソン教授らの研究で明らかになっています。
心理的安全性が高くなっても、上司やリーダーが適切な役割を果たさないと、生産性は低下します。
リーダーはどのように「心理的安全性」を創りだせばよいのか
ここまで、心理的安全性の重要性や心理的安全性を高めるための施策について解説しました。ここでは心理的安全性を高めるためのリーダーの役割について解説します。
出典:Google re:Work:優れたマネージャーの要件を特定する
Googleによる、優れたマネージャーが持つ10の行動規範
・良いコーチである
・チームに任せ、細かく管理しない
・チームの仕事面の成果だけではなく健康を含めた充足に配慮しインクルーシブ(包括的)なチーム環境を作る
・生産性が高く結果を重視する
・効果的なコミュニケーションをする・人の話をよく聞き、情報を共有する
・キャリア開発をサポートし、パフォーマンスについて話し合う
・明確なビジョンや戦略を持ち、チームと共有する
・チームにアドバイスできる専門知識がある
・部門の枠を越えてコラボレーションを行う
・決断力がある
まとめ
心理的安全性を高めることは、企業にとって大きなメリットになります。心理的安全性を高めるためには、社員に多様性を持った考え方を広めることが大事であり、上司やリーダーがその役割を果たすことが重要となります。
フランクリン・コヴィー・ジャパンでは、心理的安全性の向上につながる、人材育成に有効な研修プログラムを豊富に用意しています。研修プログラムは、組織の目標と課題のためのプロセスで設計し、行動変容をおこしたりKPIに影響を与えたりすることを目的としています。
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最高の業績を上げている組織は、常に以下の4つの点を適切に実施しています。
・各階層で優れたリーダーを育成する
・個々人に効果的な習慣を形成する
・包括的で信頼性の高い文化を構築する
・共通の実行システムにより最重要目標を追求する
フランクリン・コヴィーは、上記の4つの重要領域における組織の行動変容の実現を通して
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