多くの企業にとって、ダイバーシティの推進は大きな課題のひとつです。この記事では、社員がもつアンコンシャス・バイアスの程度を確認したいと考えている企業に向けて、アンコンシャス・バイアスの具体例やそれに対処していくための方法を解説します。組織がアンコンシャス・バイアスによる悪影響を受けないようにするため、ぜひ参考にしてください。
目次
アンコンシャス・バイアスとは?
アンコンシャス・バイアスを日本語に直訳すると「偏ったものの見方」という意味であり、無意識の思い込みを表しています。たとえば、「男性は機械の操作が得意」「女性は仕事よりも子育てを優先する」といった考え方は典型例です。すべての人が何らかのアンコンシャス・バイアスをもっており、組織に対してネガティブな影響を与える可能性があります。
アンコンシャス・バイアスは自己防衛によって生み出される
アンコンシャス・バイアスは、その人がそれまでに接してきた情報をもとに形成されます。たとえば、過去の経験や周囲の人の意見から影響を受けている場合が多くあるものです。人は無意識のうちに、自分のなかで確立された常識や習慣を変えたくないと思っています。アンコンシャス・バイアスはそのような意識を正当化するために生じます。
周囲に対する同調圧力につながり、対人関係の問題を発生させる可能性もあるため、注意が必要です。
アンコンシャス・バイアスが注目されるようになった背景
アンコンシャス・バイアスが注目を集め始めたのは、2010年代頃からです。アメリカのGoogle社やFacebook社で社員による人種や性別に関する考え方の偏りが指摘され、組織内の多様化を認めるべきだという声が高まったのが大きなきっかけです。
Google社では2013年からアンコンシャス・バイアスに対処するための研修を開始しました。その後も、さまざまな企業でアンコンシャス・バイアストレーニングが行われています。
アンコンシャス・バイアスの具体例
アンコンシャス・バイアスとは、具体的にどのようなものなのでしょうか。ここでは、具体例を紹介します。
正常性バイアス
正常性バイアスは、危険な状況を見ないようにし、自分は大丈夫であると思い込むことです。トラブルが発生しても気づかないふりをします。目先の業務に対応するだけで満足し、リスクへの対策が遅れる可能性があります。
集団同調性バイアス
集団同調バイアスは、周囲の多くの人が同じ考えであるから正しいと思い込むことです。この場合、少数派の意見は誤りだと捉えてしまいます。組織内で集団同調バイアスをもつ人が増えれば、多角的に物事を捉える視点がなくなります。
権威バイアス
権威バイアスはハロー効果とも表現され、権威をもつ立場の人の意見が正解だと思い込むことです。社長と社員の意見が違えば社長の意見が優先されます。社員のモチベーションが低下し、場合によっては企業の成長を妨げる恐れもあります。
確証バイアス
確証バイアスは、具体的な根拠ではなく自分自身の固定観念を重視することです。私たちには、すでに持っている信念を裏づけるような情報を探す傾向があります。たとえば、外国人労働者は営業に向いていないと思い込んだまま、配属を決定するケースが当てはまります。正しい評価を妨げる原因になります。
アインシュテルング効果
アインシュテルング効果とは、自分が慣れている考え方を優先し、反対意見を無視することです。過去の成功に固執して変化は必要ないと思い込みます。挑戦を拒み、ビジネスがマンネリ化する原因にもなるため要注意です。
アンカリング・バイアス
私たちは最初に目にした情報に頼る傾向があります。
内集団バイアス
私たちは、自分と同種の人を好む傾向があり、自分とは異なる人に対しては除外したり批判的になりがちです。
ネガティビティ・バイアス
私たちは、ポジティブあるいは中立的な経験よりもネガティブな経験の方が強く影響を受けます。
帰属バイアス
私たちは他の人の行動でその人たちを判断しますが、自分自身に対しては自分たちのもつ意図に基づいて判断します。
サンクコスト・バイアス
私たちは、時間、お金、またはリソースを投資することで(成果にかかわらず)物事を続ける傾向があります。
アンコンシャス・バイアスのメリット
アンコンシャス・バイアスにはメリットもあります。たとえば、前提となる意識があれば、何らかの決断を下す際にも迅速に対応できる可能性があります。ビジネスでは直感的に素早く判断すべき場面も少なくありません。アンコンシャス・バイアスは過去の記憶から得られる情報をもとにし、直感的な判断を下すために役立ちます。
アンコンシャス・バイアスが組織に与える弊害
アンコンシャス・バイアスは組織に対して悪影響を与える場合も多いです。ここでは、具体的な弊害について解説します。
採用や人事評価が公正でなくなる可能性がある
年齢や性別についてアンコンシャス・バイアスがある場合、採用や人事評価に大きな影響を与えます。たとえば、子供がいる女性は仕事で活躍しにくいという思い込みが蔓延している職場では、育休からの復帰がしにくいケースがあります。男性の育休取得がタブーとなっている企業もあるでしょう。そのような状況は、社員の定着率の低下につながります。
職場の人間関係を悪化させる可能性がある
アンコンシャス・バイアスは、本人が気づかないうちに日々のコミュニケーションに表れています。偏った考え方を声に出して話しているつもりがなくても、言葉のニュアンスや態度から周囲に伝わる可能性があります。ほかの社員のやる気やパフォーマンスを低下させる恐れがあり、企業全体の士気を下げる原因になるため注意が必要です。
組織における多様性を阻害することになりうる
組織内に蔓延しているアンコンシャス・バイアスを放置した場合、多様性を阻害する恐れがあります。日本では外国人労働者の数が増え、世の中でのセクシュアル・マイノリティに対する理解は進みつつあります。職場内でそのような人に対する偏った見方が蔓延していれば、多様性の理解につながらず自社にとって重要な意見が失われるかもしれません。
アンコンシャス・バイアスのチェックリスト
アンコンシャス・バイアスについて確認するためには、チェックリストを活用すると効果的です。ただし、アンコンシャス・バイアスは誰にでもあり、チェックリストの結果は組織全体の良し悪しを示すわけではありません。あくまでも、アンコンシャス・バイアスの程度を自覚するための参考資料として活用しましょう。
アンコンシャス・バイアスのチェックリスト例
アンコンシャス・バイアスのチェックリストには、さまざまな項目を盛り込む必要があります。ジェンダーや出身地をはじめとし、世代、血液型、上下関係などさまざまな項目について取り入れましょう。それぞれの人の価値観によるアンコンシャス・バイアスについて確認する項目も必要です。
アンコンシャス・バイアスのチェックリストの具体例を示すと以下のとおりです。1つでも共感する場合、アンコンシャス・バイアスがあると判断できます。
・小さい子供がいる女性は、出張の多い業務を担当するべきではない
・女性は男性よりも気遣いができて当然だ
・育休を取得する男性は意欲がないと感じる
・来客時に男性社員がお茶を出すのは、おかしい
・出身地から、その人の特徴をイメージすることが多い
・飲み会の幹事は若手社員が率先して引き受けるべきだ
・血液型によって相手の性格を判断している
・どのような場面でも常に上下関係を意識する
・過去に成功例がなければ、成功率は低いと思う
※参考:アンコンシャス・バイアスとは?|一般社団法人アンコンシャス・バイアス研究所
アンコンシャス・バイアスに対処するためのトレーニング方法
アンコンシャス・バイアスに対処するためには、トレーニングが必要です。ここでは、具体的な方法について解説します。
自身のアンコンシャス・バイアスを認識する
まずは、自分自身がどのようなアンコンシャス・バイアスをもっているか把握するところから始めましょう。さまざまな企業が教材を公開しているため、それらを活用するのもおすすめです。たとえば、「Implicit Association Test(IAT)」では、質問に回答すると自分自身の考え方の傾向をチェックできます。
ポジティブな体験でネガティブな思い込みを塗り替える
ネガティブな方向に偏った見方をしている事柄について、新しくポジティブな体験ができるようにしましょう。ポジティブな体験をすれば、それまでの偏った思い込みを塗り替えやすくなります。企業でトレーニングする場合は、多様な価値観をもつ社員を同じチームのメンバーに含めるのがポイントです。さまざまな考え方に触れ、それらを受け入れられるよう訓練します。
評価の仕組みを変える
アンコンシャス・バイアスに対処するには、アンコンシャス・バイアスから影響を受けないような評価の仕組みを整える必要があります。そのためには、さまざまなポイントを意識することが大切です。以下では、具体例を紹介します。
構造化面接
構造化面接とは、最初に用意しておいた質問項目と基準に基づいて面接を進める方法です。全員にまったく同じ質問をし、一定の基準に基づいて評価します。面接の結果に面接官の主観が含まれないため、公正な評価が可能です。
質問項目と基準が偏っていないか、あらかじめよく確認したうえで実施しましょう。
採用のブラインド化
採用のブラインド化とは、応募書類からわかる情報のうち業務に直接関係しない情報を除外して専攻する方法です。たとえば、年齢や性別などの情報を除外します。応募書類の形式を変更したり、ソフトウェアを使って除外したい情報を隠したりしましょう。採用のブラインド化を実施すれば、多様な人材を採用しやすくなります。
まとめ
アンコンシャス・バイアスは誰にでもありますが、組織に悪影響を与える可能性もあります。組織の状態を良好に保つためには、アンコンシャス・バイアスに対処しなければなりません。そのために、トレーニングを実施しましょう。
フランクリン・コヴィー・ジャパンでは研修プログラムを実施するだけではなく、組織の課題解決と目標の達成ののためのプロセスを設計し、行動変容を起こすことやKPIに影響を与えることを目的としたサービスを日本で提供しています。
フランクリン・コヴィーの「アンコンシャス・バイアス」プログラム
多くの企業でダイバーシティ&インクルージョンに関する何かしらの取り組みが行われています。しかしその取り組みが「ダイバーシティ」という側面、つまり「多様性が存在している」という点にフォーカスするだけでは不十分です。
これらの取り組みを組織のありたい姿にまで結びつけるためには、もう一つの側面にあたる「インクルージョン」、つまり一人一人の持つ多様な価値観を組織と個人が尊重し、活かすことがポイントとなります。
フランクリン・コヴィーの「アンコンシャス・バイアス」は、お互いを1⼈の⼈間として理解し受け⼊れ、リーダーやチームメンバーがバイアスに対して相応しい対処ができるようにすることで、組織全体のパフォーマンス向上ををサポートします。