自分の行動や思考を振り返ることで、不要なスキルや知識を手放すアンラーニング。業務効率を高め、従業員の思考に柔軟性を持たせられるとして注目が集まっています。
この記事では、アンラーニングの基礎知識やメリット、実践時のポイントや事例を紹介します。
従業員のアンラーニングをサポートする際のヒントにしてください。
目次
アンラーニングの基礎知識
はじめに、アンラーニングの概要や、似た考え方であるリスキリングや経験学習モデルとの違い、そして具体例について解説します。
アンラーニングとは
アンラーニングとは、自分の考え方や技術などを内省し、有効でなくなったものを手放すことをいいます。
古い知識やスキルに固執せず新しいスキルや考え方を取り入れられるとして、リスキリングと併用して取り入れる組織も増えています。
アンラーニングで手放す対象は、スキルだけでなく、考え方や価値観なども含まれます。
環境の変化に対応するためにも、アンラーニングのような取り組みを通して、過去の成功体験に囚われていないかを確認することが強く求められています。
リスキリングとの違い
アンラーニングと同時に取り上げられることの多いリスキリングは、組織が主導して、従業員に新たな知識やスキルを身につけてもらうことをいいます。代表的なリスキリングの例として、プログラミングや英語などが挙げられます。
リスキリングが必要な考えやスキルを身につけるものであるのに対し、アンラーニングは考えやスキルを捨てるものです。どちらも自分自身を成長させる機会であることは同じですが、用いられる手法は大きく異なります。
経験学習モデルとの違い
デービッド・コルブにより提唱された学習サイクルの「経験学習モデル」では、アンラーニングの考えを使うことで効率よく学びを進めることができると考えられています。
経験学習モデルでは、学びを深めるためにはある事柄が起きたあとそれについて内省し、教訓を引き出し、新しい状況に適応することが必要だと考えます。
教訓を引き出す際には、自分の持っている知識やスキル、固定観念を見直すことが非常に重要です。また、見直した結果、手放す必要がある知識も出てくることでしょう。この際に、アンラーニングの考え方が非常に役に立ちます。
アンラーニングはVUCA時代に必須のスキル
VUCA(ブーカ)時代とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語で、将来を予測しづらい状況のことを指します。
現代は、技術の進化やグローバル化によって社会の変化スピードが速くなり、今まで持っていた常識や経験が通用しなくなる、まさにVUCA時代です。
有効でなくなった考えや方法を使用しないアンラーニングの考えが、これまで以上に求められているといえるでしょう。
アンラーニングを取り入れるメリット
アンラーニングを取り入れると、組織はどのように成長できるのでしょうか。3つのメリットについて解説します。
1. 従業員の成長をうながす
これまでの成功経験に縛られすぎている従業員は、新しいスキルや考え方を取り入れる機会やモチベーションを失いがちです。アンラーニングによって、考え方や行動パターンを見直し、柔軟な考え方を身につけるきっかけを作れます。
従業員の変化によって、組織全体にも新しい価値観を取り入れる文化が広がります。結果として、これまで実現できなかったサービスや商品の開発につながる可能性が生まれることも考えられます。
アンラーニングの実施は、従業員と組織の双方にとって有益であるといえます。
2. 業務効率化ができる
業務では、時代や環境の変化とともに非効率的な部分や無駄な作業が生じることもあります。
アンラーニングでは、無意識に抱えていた思いこみや常識を自覚することが重視されます。この過程で、業務のうちの非効率的な部分に目がいくようになることもあるでしょう。これらを取りやめることもまた、アンラーニングの取り組みといえます。
アンラーニングを進めることで、業務のスピードや品質を大きく向上させるメリットが生まれます。
3. 組織の柔軟性が高まる
業務効率化が進むことで、時間や金銭面にゆとりを持った組織運営ができます。この結果、新しい情報や知識を積極的に吸収する余裕が生まれることは、アンラーニングを進める大きなメリットといえます。
時代の変化に合わせて、常に組織にとって適切なスキルや業務フローを選択する文化が生まれるため、組織の柔軟性が高められるでしょう。
また、従業員が業務フローの無駄を指摘できるため、モチベーション維持にも効果を発揮します。
アンラーニングの取り入れ方
ここからは、組織にアンラーニングを導入する際の方法について解説します。
仕事への取り組み方を「見える化」する
最初に、従業員それぞれが仕事への取り組み方を「見える化」します。
この過程では、自分がどんなスキルや知識を持っているかといった客観的な情報にとどまらず、どのような価値観に影響されているかなど、無意識の先入観まで明確にします。
見える化の方法は人それぞれですが、瞑想やマインドフルネスなどの手法も効果的であるとされています。
組織が主導して内省の時間を設けることで、アンラーニングを進めましょう。
組織のメンバーと共有する
次に、見える化したスキルや価値観をチームのメンバーと共有しあいます。見方に偏りがないか確認しあうほか、新しい知識やスキルを一緒に学ぶことも検討しましょう。
アンラーニングの結果を共有することは、従業員同士の心理的なサポートにもつながります。
これまでの価値観を否定することは、不安やストレスを生みやすいものです。組織のメンバーとこの時期を乗り越えることで、従業員は業務に対してより前向きに取り組めるようになるでしょう。
定期的に振り返りをする
1つのアンラーニングのステップが終了したあとも、時間をおいて再び知識やスキル、価値観の見直しを実施します。見える化のステップと同様に、組織が先導して実施することを心がけましょう。
振り返りは従業員がどの程度成長したのかを確認する機会にするほか、場合によってはセミナーや講座の実施など、リスキリングにつなげるぐことを検討します。
従業員1人ひとりが変化することは、組織の風土や課題解決力を高めることにもつながります。
アンラーニングを取り入れる注意点
アンラーニングはメリットも多い一方で、導入の方法にを気をつけなければ失敗に終わる可能性も出てきます。ここでは、アンラーニングを取り入れる際に組織が気をつけるべき点について解説します。
これまでの方法の否定ではないと伝える
アンラーニングを導入する際は、アンラーニングによってこれまでの方法を否定するわけではないことや、従業員の成長を後押ししたいと思っていることを強調して伝えましょう。
これまでの仕事を否定されたと感じる従業員は、業務へのモチベーションが低下し、新しい学びに抵抗を持つ可能性もあるため、注意が必要です。
組織の上層部が率先してアンラーニングを進めることで、従業員に安心感を与えることも重要です。
一時的に効率が落ちることもある
慣れ親しんだ業務フローや考え方から、新しい方法を取り入れた直後は、それまでよりむしろ効率が下がるのが当然のことです。成果が出るまでには時間がかかると考えましょう。
一時的にうまくいかなかったからといって、すぐに従来の方法に戻そうとせず、しばらく様子を見てみることが、アンラーニングの成功のカギといえます。
アンラーニングを取り入れた組織の事例3選
ここからは、経営にアンラーニングの考え方を取り入れ、既存の方針をあえて捨てたことにより成長を遂げた組織の事例について解説します。
1.富士フイルム株式会社
カメラメーカーとして知られる富士フイルム株式会社は、販路の拡大を目指し、化粧品や医薬品事業に参入しました。
これまでのカメラメーカーとしてのノウハウを全て捨てるのではなく、カメラのフィルムの主原料であるコラーゲンへの知見や、フィルムの劣化を防ぐ抗酸化技術などの技術を生かしているところが特徴です。
自社の強みを見直し、新たな価値を創造することで成長を続けた事例です。
2.YouTube
YouTubeは創業当初、恋人や友人を見つけるためのマッチングサービスでした。しかし、ユーザーのサービス利用方法を研究する中で、多くがマッチングに関係のない動画をアップロードしていることに着目。事業形態を大きく変えることを決断しました。
この決断が功を奏し、今では世界で20億人以上が利用する巨大な動画配信サービスに成長しています。
3.アサヒビール株式会社
アサヒビール株式会社は、1984年に過去最低のシェアを記録したことをきっかけに、製品開発の方針を大きく変更しました。
従来は、製造部門がつくった苦味と重さ重視のビールを販売していましたが、転換以降は、消費者が求めているコクとキレのあるビールを販売するモデルへ。この結果、新しいビールは大ヒットし、シェアも回復しました。
まとめ
既存のスキルや考えを取捨選択するアンラーニングは、組織に柔軟性をもたらし、従業員の大きな成長をもたらします。
変化の激しい現代、リスキリングとあわせて、多くの組織が導入するべき手法といえるでしょう。